左:アルコベール館長、右:小林博士
ヘレラサウルスの特徴
主竜類の系統
イスチグアラスト州立公園の地層
生命の進化史を説明するアルコベール館長
講演を始めるアルコベール:アルコベール館長
恐竜パンテオン特集 地球最古の恐竜展 DAWN OF THE DINOSAURS  〜天空の恐竜ミュージアム〜
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2010年7月8日
アルゼンチン・サンファン国立大学自然科学博物館
アルコベール館長 講演会

「恐竜の起源を書きかえる!〜イスチグアラスト州立公園での最新の発見より〜」

注:この講演概要は、当日の講演をパンテオンがノートしたものに基づいています。必ずしもすべてを正確に漏れなく記録したわけではありません。地層や恐竜について正確に詳しく知りたい方は、本展のカタログをご覧ください。

 アルコベール館長は、最初に本恐竜展の開催に尽力したNHKほか関係機関に感謝の意を表し、講演を始めました。
まず、今日の聴衆が一般の人々であることから、生命の進化史から話をはじめました。 6億年前からはじめ、カンブリア爆発により海生生物が多様化したこと、3億2千万年前に爬虫類が出現したこと、2億3千万年前にイスチグアラスト層の様々な生物が出現したこと。恐竜は6500万年前まで発展を遂げたこと、そして600万年前に最初の人類の祖先、20万年前にようやくホモ属が出現したことまで時系列で説明しました。恐竜は1億5千万年の間、地球を支配していたのです。

次に、イスチグアラスト州立公園の地層について説明しました。 ラ・リオハ州、サンファン州の衛星画像写真、これは地層の違いが色の違いとなってあらわしてあります。 この写真で赤く見えるのは、イスチグアラスト州立公園の三畳紀地域、ロス・コロラドス層。ロス・チャニアレス層からは最古の恐竜が見つかった。灰色のところがイスチグアラスト層・・・説明は続きます。

イスチグアラスト州立公園の地層層序について説明
 ロス・コロラドス層
 イスチグアラスト層  2億2800万年前
 ロス・ラストロス層  当時の環境は湖やデルタ。植物化石のみ。
 ロス・チャニアレス層 プレ恐竜
 タランパヤ層     2億5100万年前 化石なし

 次いで脊椎動物の系統の中で恐竜がどのような位置づけになるのか、わかりやすく説明。 そして、個々の恐竜についてその特徴もふくめ紹介していきました。 参加した人には、会場に入る前に絶好の予習となりました。

ヘレラサウルス
1959年に発見された。ヴィクトリノ・ヘレラという、この辺りに住んでいた羊飼いが古生物学者のグループのガイドをしていた。彼の名にちなんでいる。 非常に小さく、一番大きいものでも3mくらい。わかっている限り、脊椎動物の中で最初に2足歩行できた。前足が他の恐竜と比べ長く、原始的な特徴である。非常に原始的な恐竜と、進化した恐竜の中間的なもの。両方の特徴を持っている。手は2本の指が退化し、123指。後足の指も1・5の指が退化している。進化した恐竜のクビはS字カーブを描いているが、ヘレラサウルスのクビはかたく、まっすぐである。あごには通常の関節にプラスしてもう一つの関節がある。噛みついても、もう一つの関節が作用して、ばねのような働きをしたのではないだろうか。

パンファギア
2足歩行で雑食の恐竜。ここでは1991年に2番目の恐竜を発見し、97年に3番目、2001年に4番目、2004年に5番目。さらに新しい恐竜を2種類、これから発表する。計7種類の恐竜となる。  歯が他のものと変化してきた最初の兆候を示している。肉食から雑食への移行。植物を食べ始めたのではないだろうか。体長は50〜70cmの小さい恐竜。でもこの子孫(竜脚類)は35mもの体長になった。また、前足が長くなってきているのがわかる。肩甲骨が広くなってきている。草食恐竜になる傾向にあたり、2足から再び4足に戻る傾向にある。

フレングエリサウルス
ヘレラサウルスに似ているが、体長は9mになる。三畳紀最大の恐竜。 エオラプトル 最近まで肉食と考えられていた。T-REXの遠い祖先と確信していた。しかし、パンファギアが発見され、それと比較した結果、むしろ植物食の方に発達していたのでないかと考えるに至った。ですから、様々な恐竜を発見するたびに、恐竜の起源や進化についての考え方がドラスティックに変わってきた。

ピサノサウルス
最古の鳥盤類。ここ数年ピサノサウルスに関するものは見つかっていない。画面の骨格写真は、ピサノサウルスに似ていると考えられる恐竜の骨格写真。恐らく、くちばしがあったのでないかと考えている。唇が発達していたと考える研究者もいる。

新種恐竜”Y”
 2年ほど前、私たちはNHKと一緒に仕事をすることになった。2つの種類の恐竜を発見した。近いうちに発表する。私達科学者の仕事とは別に長い仕事がある(論文発表のプロセス)。既に名前もついているが、論文の載った雑誌発刊まで使えない。 2足歩行、肉食で最古の獣脚類。これまで最古の獣脚類は、もう1〜2千万年あとと考えられていた。

新種恐竜”X”
ヘレラサウルスに非常によく似ている。前足がかなり短くなっている。ヘレラサウルス、フレングエリサウルスと”X”は、ヘレラサウルス科を構成する。この位置づけについては、恐竜のちょっと外か、竜盤類、獣脚類など、研究者により違っている。エオラプトルとパンファギアは最古の獣脚類。新種恐竜”Y”も獣脚類。 ロス・ラストロス層を探索することにより、恐竜の起源がわかってきた。2億3千万年前には恐竜は多様化していた。恐竜の起源を探すには、さらに300〜400万年前を探す必要がある。

恐竜の新しい見方について要約すると、
1 恐竜は、2億3千万年前のイスチグアラスト層で完全に多様化した。
2 恐竜の祖先は、2億3600万年前のチャニアレス層から2億3000万年前のイスチグララスト層の最下層の間に出現した。
3 イスチグアラストの新種恐竜”X”は、最古の獣脚類恐竜である。
4 竜脚形亜目と獣脚類の違いは、イスチグアラスト層にすでに見られる。
5 ヘレラサウルスは少なくとも3種の恐竜に多様化した。


アルコベール館長と小林快次博士のトークセッション

小林:私は白亜紀や比較的新しい時代のワニ類の研究をしているが、その本源の話を聞けてうれしく思う。聴衆を代表して、いくつか質問したい。2億3000万年前までに恐竜はすでに多様化していたという話があったが、恐竜の起源はどのくらい遡るのか。

アルコベール:三畳紀中期の一番底の地層とイスチグアラスト層の間、400〜500万年の間に、恐竜の起源について何らかの情報があると思う。

小林:どの国に行けば、起源の情報があると思うか?

アルコベール:非常に難しい質問だ。三畳紀中期の地層はあまりない。中国、アフリカ、ブラジルやアルゼンチンなどだろう。

小林:私も三畳紀からジュラ紀まで連続した地層を見てきた。中国にもチャンスがあると考えられるだろうか?

アルコベール:中国でも様々なものが見つかるのではないかと考えている。イスチグアラスト層では7つの恐竜が見つかっている。80年代にはボナパルトがずいぶん仕事をしているが、彼は、それ以外の場所については化石が見つからない地層がずいぶんあると言っていた。ボナパルトは見つからないと言っていたが、見つける技術の開発も重要と考えている。

小林:中国で私の行った所はC.C.ヤング(黄鐘健)以来ほとんど研究されていないので、期待している。

アルコベール:提案だが、日本・アルゼンチンで組んで研究したい。

小林:なぜアルゼンチンで恐竜が多様化できたと考えているか?

アルコベール:私達は幸運だったと思っている。恐竜自体はどこにもいたが、イスチグアラスト層などの化石保存の条件が良かったので化石が残った。また、アンデス山脈の近くなので地面が隆起して化石が露出している。

小林:当時の環境について詳しく説明してほしい。

アルコベール:イスチグアラスト州立公園の気候は、だんだん解ってきている。色のついた地層の色が分かれているところは、当時の地面を表している。その中にノジュールがある。ノジュールを分析すると、2億6000万年前までのノジュールで酸素量や炭素量を測ることができる。その結果、季節がはっきり存在していたことがわかった。    2億3000万年前のイスチグアラストの気候は、現在のアフリカ中央部、サバンナ近くのデルタに似ているのではないか。

小林:サバンナで水もある地域か?

アルコベール:その通り。20〜30年前までは、イスチグアラスト州立公園はジャングルのような気候と考えられてきた。それは完全に違うと解った。広い平野、木はない。シダ類の平原。ディキノドンやリンコサウルス、恐竜が生息している。乾季になるとそこに住んでいた生物は死んだのではないか。新たに雨が降ると洪水になり、死んだ動物を閉じ込めて化石としたのではないだろうか。乾季には地下水位が非常に低下し、カルシウム濃度が高くなる。骨の分子とも影響し、化石に残りやすくなる。

小林:今回の展示の中で生態系の頂点を占めていたものは?

アルコベール:ワニ類の祖先だと思っている。

小林:フレングエリサウルスは?

アルコベール:短期間なら生態系の頂点をワニ類の祖先と競ったかもしれない。だが、三畳紀を通しては、ワニ類が頂点を占めていた。

小林:展示の中で好きな恐竜もあるが、新種恐竜”Y”がティラノサウルスの祖先としているが、獣脚類の特徴、ポイントは?

アルコベール:一般の人が見分けるのは大変と思う。それぞれ形も似ている。見分けるには大きな虫眼鏡が必要。例えば”Y”とパンファギアとエオラプトルの違いは顕微鏡で調べる程度だ。

小林:おすすめの、ぜひ見てほしいポイントは?また、展示以外の新しい発見は?

アルコベール:ひとつ注意してほしいが、恐竜類とワニ類がどこに集結するか見てほしい。展示の中で、どれが恐竜か、注意を払ってほしい。サウロスクスはワニ類であることにも注意してほしい。ワニ類と恐竜類が進化の過程どどう交差したか見てほしい。最近、奇妙な生き物、空を飛ぶ爬虫類がいたことがわかった。これ以上はお話できない。

小林:どんどん発見、調査研究していただきたい。


会場からの質問(第1問以外は子どもから)

質問:肉食恐竜は2足、草食恐竜は4足のイメージがあるが、それはなぜか?
アルコベール:鳥盤類の中には草食でも2足のものが見つかっている。4足の傾向はあるが、理由ははっきりしない。草食恐竜は戦略的に体を大きくしていったともいえる。

質問:恐竜は、ごはんを食べても虫歯にならなかったのか?
アルコベール:歯が何回も生えかわったので、虫歯になるひまがなかったと思う。

質問:地球(の生物)が全滅したら、恐竜の時代がまたきますか?
アルコベール:今でも恐竜がいる。鳥が恐竜。人間や他の動物が全滅したら、鳥が進化して恐竜になるかもしれない。

質問:生き残った人間と恐竜は一緒に暮らせますか?
アルコベール:そうなると、人間はもう一度洞穴で暮らさなければならなくなるかもしれない。でも人間は知恵があるから生き延びるだろう。

質問:先生は、そうなったら根性で生き残りますか?
アルコベール:私は恐竜と戦おうとは思わない。頭も使って隠れ暮らすと思う。