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4 ウランバートル自然史博物館

 最終日、今日はウランバートルで自由行動。ショッピングにいそしむ人あり、公園で憩 う人あり、もちろん私は自然史博物館で写真を撮るつもりだ。三日前の市内観光の折り、 一回ざっとみているが、その時は団体行動だったので、一人だけ撮影に熱中するわけには いかなかったからだ。もう一人、都合二人が博物館に行きたいと申し出たところ、モンゴ ル側はマイクロバスと別のガイド嬢を付けてくれた。博物館の入場料は300 トゥグリク又 は1米ドル。別に撮影料金が展示室毎にかかる。カメラ、ビデオ、映画の順に料金が高く なる。フラッシュ禁止も書いてある。入り口右手はショップになっている。日本や欧米の 博物館のミュージアムショップを想像してはいけない。ここのショップは純然たる外貨稼 ぎの手段なのだ。取扱品目はカシミアセーター、馬頭琴、人形、革製品、絵、伝統音楽の カセットなど。全てドル払いである。でも、日本からの添乗員さんは「ここのショップは ほかの店よりも安くていいんですよ。」と、言っていた。店員も「いらっしゃいませー」 と、黄色い声をはりあげている。それを無視して2階へ。

 まず、 タルボサウルスの部屋に入る。 正面に1体、左手になぜか腹ばいになったのが1体。ここぞとばかりに写真を撮ろうとす ると、ガイド嬢に注意された。壁の注意書きを読 むと、カメラは5ドルである。その部屋の絵はがき売りのおばさんに払うと、何やら切符 をくれた。さあこれで天下御免だ。 タルボサウルス の他にはサウロロフスが左手後方に立 っている。でかい。タルボサウルスより大きい。これが集団でいたら、なかなかタルボサウルス も襲えなかったんでないかと、ぼんやり思う。



 右手には何だろう。壁に教会の飾り 物のように腕が釣り下がっている。2mは優に超えている。しかも腕だけというのが気にな る。私の貧弱な知識では手といえばテリジノサウルス くらいしか思いつかない。ガイド嬢を通して絵はがき売りのおばさんに(それしか職員は いなかった)あれは何の手か尋ねた。 タルボサウルス の仲間の恐竜の手だと言う。ええっ!そんなに手が大きい タルボサウルス だったらゴジラの大きさになってしまうじゃないか。と言ったが、モンゴル人にゴジラ は通じなかった。帰国してから、そういえば前にモンゴルの恐竜について記事が載ってい たな…と、「恐竜学最前線」 というムックのバックナンバーをめくっていると、その中になんとこの博物館の紹介記事が 館長自らによって書かれてあるじゃないか。しかも写真もしっかりついている。 デイノケイルスと。あーあ、 出発前によく調べておくんだった。
 さらに右手のガラスケースの中にはオヴィラプトル の全身骨格が。ふーん、こんな格好してたんだな。しかし、頭骨は正面からみるとこんなに 平たいものとは知らなかった。もっと丸いかと漠然と思っていたが、これでは煎餅だな。そ れにしても周りの壁には何とも古典的な絵がかかっている。腹を突出し、尾を地面にたらし た恐竜達。ガニまたのプロトケラトプス。 一体いつ頃の絵なんだろう。

 タルボサウルスのホールを出て周 囲の部屋を回る。まずは、卵の化石オンパレード。全てガラスケースに入っている。細長い物、 丸い物、何の卵か知りたいが、たまに付いてい る説明はキリル文字だ。…わからない。仕方なく、ガイド嬢に時々読んでもらった。もっ とも、「これは湖の恐竜。」などと、大したことが書いてない場合も多い。


 この右手のガラスケースは、おお、かの闘争化石である。 ヴェロキラプトルプロトケラトプス が互いに致命傷を与えながら砂に埋もれて化石になったものだ。別のガイドが日 本のビジネスマンの一行に「皆さーん、これは草食恐竜と肉食恐竜がケンカをしたまま化 石になった、世界でただ一つのものです。」と、説明している。おいおい、恐竜の名前く らい教えてやってくれよ。それでも唯一の物と聞いて、二人ほどポケットカメラで撮りだ した。一行が去ってからこちらが撮影を始める。ここの標本は全部ガラスケースに入って いて、しかも外からの光がまともに映りこむので、撮影しにくいことおびただしい。幸い 偏光フィルターを持ってきたので、適宜装着して撮った。 この次ここに来られるのは何年 先かと思えば、力が入る。その間ひまをもてあましたガイド嬢は、絵はがき売りのおばさ んとおしゃべりしている。標本の中にはなぜか日本語の説明がついている物がある。以前 日本で展示した時の物をそのままにしているらしい。ただ、大部分は化石の産地のみ日本 語で、肝腎の名称のところは、上からキリル文字の紙が貼ってある。せめて英語の説明も 一緒につけてほしい。部屋の奥に変な格好の小型恐竜がケースに入っている。ちょっと見 て嘴がついているので、安易に( プシッタコサウルス かな)と気にも止めないで何枚か撮 った。帰国してから写真をよく見たら、全然違う。ちょっとブレたが、頭骨のクローズア ップがあり、他の資料と突き合わして、 インゲニア の全身骨格と判明した。これだからパ ンピーは困る。兼好法師ではないが、「先達はあらまほしきこと」と言いたくなる。
その他、プロトケラトプス は3体ほど、サイカニア 、私にはホマロケファレ に思えるの だが「頭突き恐竜・パキオケファロサウルスの頭骨」と説明がついた物、 オヴィラプトルインゲニア の頭骨などが主な見物である。哺乳類の方では毛サイの骨格が見応えある。 ガイド嬢に「お仕事なんですか?」と聞かれるほど写真を撮り、閉館の5時間際に博物館 を出た。もう一人はとっくに出て街をぶらついているはずだ。


 ともあれ、こんな調子で私のモンゴル旅行は終わった。空港で別れ際、トヤさんが「そ うそう、忘れるところだった。」と言いながら、手のひらにのるほどの竜脚類の置物を私 にくれた。それはこの旅行の一番の宝物となって、部屋の恐竜コーナーを飾っている。

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