■SVP2002年度総会レポ−ト


アルゼンチノサウルス推定復元骨格 頭蓋から頚椎


○行ってはいけない/行ってよーし!

 さて、これで今回の旅の主要な日程はすべて終了したわけだが、こっち
の方へ来たついでに、筆者にはちょっと立ち寄っておきたいところが2つ
あった。内1つは、直線距離にすればここからそう遠くないジョージア州ア
トランタのフェーンバンク博物館。10年前オープンしたばかりの新しい博物
館だが、ここのウリは何と言っても、あのアルゼンチノサウルスの推定復
元骨格が置いてあるということだ。

ご承知のように、アルゼンチノサウルスは脊椎が6個、磨滅した仙椎付近、
それに、本当にこの恐竜のものか否か定かでない脛骨が1本しか知られ
ていないが、それでも、ともかくばかでかい竜脚類であることだけは間違
いない。巨大竜脚類に対する思い入れでは人後に落ちない筆者としては、
ぜひこの機会に見ておきたかったのである。

 と、いうわけで、10月15日早朝の便で、いったんシカゴに舞い戻った筆
者は、今度はアトランタ行きの、これまた窮屈なリージョナル・ジェットに乗
り換えてふたたび南へ向かった。地図でみれば、経路は鋭角二等辺三角
形となり、非常な大回りだが、アメリカの航空業界のハブ・システムではこ
れが常識であるからしょうがない。正午ちょっと前、機は小雨にけむるアト
ランタの滑走路に滑りこんだ。

 以前にもいっぺんアトランタではトランジットで降りたが、空港のだだっ
広いのには参った。今回も、ゲ−トを出てからグラウンド・トランスポ−テ−
ションにアクセスするまでにさんざん歩き回らされたが、シャトルは見つか
らず、やむなくタクシ−のお世話になる。ダウンタウンまで20分そこそこだ
から、大した出費にはならないが。

 程なく車はダウンタウンの外れに近い今夜の宿に到着。どうせ今夜一晩
寝るだけだからと思って、某有名モ−テル・チェ−ン系のホテルを予約して
おいたのだが、着いてみていささかがっかりしたのは、これまでに泊まった
中西部のそのチェ−ンのどのモ−テルよりも、ここは設備が老朽化してい
ささかカビ臭く、うらぶれた感じがすること。しまった、これなら空港のアモ
デ−ション・サ−ビスで今日のバ−ゲンの部屋でも探した方がよっぽど気
がきいていたかもしれん。

 まあ、しょうがねえ。気をとりなおし、荷物を部屋に彫り込むと、撮影機材
を詰めたバッグだけ引っかけ、フロントで博物館までの道順を尋ねた。聞
けば徒歩でも行ける程度の距離だというが、さっきから雨もやや本降りに
なってきたし、雨具もないので車を呼んでもらう。車は、意外と緑の濃い
森の中のような道をしばらく辿り、やがて木立の向こうに忽然と、真新しい
博物館の建物が現れた。

 中に入ると、チケット売り場のカウンター前に、車のバックウィンドウに張
るステッカーがたくさん置いてある。群青の地に蛍光色の黄緑でアルゼン
チノサウルスのシルエットが抜かれ、黄色の文字で「FERNBANK WE SAW
THE WORLD LARGEST DINOSAURS 」と書いてある。宣伝宜しく、という
ことなのだろう。とりあえず数枚いただいておく。

 さて、それで肝心のアリゼンチノサウルスは、と見ると何のことはない、い
きなり入ったところが「グレ−ト・ホール」と称する八角形の吹き抜けの大き
な空間になっており、このホールの壁沿いに、巨体を弓なりに曲げたアル
ゼンチノサウルスと、それを左後方から追うギガノトサウルスが置いてある。

 組み立て骨格を黙ってじっと見上げることしばし。ようやく出てきた感想は・・
「なんじゃーこれはあーー。うっそくせーーーーーーーーーー!!!」

 リアリティのまったくない組み立て骨格というものもこれまでけっこう見て
きたつもりだったが、これはちょっと絶句ものである。わかっちゃいたつもり
だったが、それにしても、所属する科さえ定かでない恐竜を、ここまで具体
的に形にしてしまうということに、誰か心のやましさを覚えるという人間は一
人でもいなかったのか? もし、これが当初言われた通りティタノサウルス
科のメンバーであるとしたら、なぜこいつの前足はこんなに長い? なぜ
こいつの頭骨は中途半端にブラキオサウルス型なんだ? アンデサウル
ス科だという主張が正当性を持つならなおのこと、アンデサウルス科の恐
竜がこんなプロポーションだったという確かな根拠でもあるのか? 

こいつがブラキオサウルスに似ているという唯一の根拠は、下椎弓窩−
下椎弓突起型の関節があるということだけだろ−が。見ろこの前足。末
節骨の復元のしようがないもんだたら、ボンレスハムみたいな中手骨が
5本縦に並べてあるだけだ。その上にある、この妙な茶色の塊は手根
骨のつもりか?

 この骨盤は何だ? なぜこんなにおざなりな造りをしている? リアルに
造れば造るほどウソの傷口が広がるからか? だったら最初からやるん
じゃね−よ。俺はわざわざこんな物を拝みに、1日の行程と宿代飛行機代
をついやしてやってきたのか? これだけのために?

 ともすれば、その場にがっくりと座り込みたくなる萎えた気力と足を奮い
立たせ、常設展示を覗いてみることにする。この奥に「A WALK
THROUGH TIME IN GEORGIA」なるホ−ルがあるとパンフレットには出
ている。そ−か。よし。これはちょっとキツめのシャレだったと思うことにし
よう。せめてジョージアの地元の化石の一端なりと見られれば、多少の
慰めにはなるのではないかと思ったら、くそ。傷口に塩をなすりこみや
がって。

 正直なところ、1990年以降に開館したアメリカの新しい博物館で、これ
ほど展示内容の脈絡がなく、内容そのものが低く、見せようという気が
感じられない博物館はまたとはあるまい。古生代の海の中を再現しまし
たと称する水槽の中は照明が弱すぎてまっ暗け、何が入ってるんだか
見えやしない。ブースを出ると、その外にはいきなり何の脈絡もなく、現
在のジョージアの生態系のとんでもなく安っぽい、本当に安物のビニ−
ル製の植物をあしらったジオラマもどきが始まり、その先に、唐突に恐竜
の展示が現れる。

 もう私は何も申しません。ここにお見せするティラノサウルスとハドロ
サウルスの造形がすべてを語り尽くして余りあるでしょう(後ろの壁画
にも注目)。この平成の御世に、木戸銭を取ってこれを見せている人が、
いるんですよ。本当に。ねえ、これだったら、チョコラザウルスを実物大
まで引き延ばして置いてやったほうがどれだけましかと、あなたもそう
思いません?

 結論です。この博物館に行ってはいけない。金と時間の無駄とはどう
いう意味か、身をもって知りたい人にのみ、ここは自信をもっておすすめ
できます。

 その夜はもうやけくそで町に繰り出し、「WHERE 」にアトランタ随一の
グリルバーの1つと出ていた店で、なるほどこれならと思わせるステー
キ・ディナーとワインを楽しませていただいた。この店のおかげで、辛う
じてアトランタは筆者の記憶の中に全米最悪の思い出を残す町として
焼きつくことをまぬがれたと言っていい。


ギカノトサウルス骨格



アルゼンチノサウルス骨格前部



アルゼンチノサウルス骨格胴部



ボンレスハムみたいな中手骨



アルゼンチノサウルス胴部



ティラノサウルス造形



ハドロサウルス造形
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