■SVP2002年度総会レポ−ト


カイル・デイヴィス氏


 てな所で、すでに陽も傾き、しだいに手元も翳ってきた。筆者は今日中にオク
ラホマシティに戻り、明日早朝の飛行機をつかまえなければならない。残念だ
が、今回の発掘体験はこれにて打ち止めである。

 われわれ3人とデイヴィス氏はそれぞれの車に乗り込み、ともにオクラホマシ
ティを目指して走りだした。途中、デイヴィス氏おすすめの「ビッグ・ファット・
キャットフィッシュ」なる、聞くだに旨い土地の料理が食えそうなレストランへ寄
ろうという話になっていたが、残念ながら今日は店が閉まっている。第二候補
の「パンダ何とか」というよくある屋号の中華屋へ車を乗り付ける。

 中へ入ると、ああ、いちおう中国人がやっている、そこそこの水準には達して
いそうな店で、胸をなでおろす。カフェテリア方式で、料金を払い、皿をもらうと、
何度でもおかわり自由というやつだ。何を食おうか迷った末、一通りのものを
皿にのせ、さてテ−ブルに戻ってくると、デイヴィス氏が前に座ったお2人を相
手に、何やらさかんに熱弁をふるっておられる。ん? なんだって?

 宮崎駿監督の「天空の城ラピュタ」がいかにすばらしい作品であるかについ
て、デイヴィス氏が夢中で力説しているのだということに気づいた瞬間、筆者は
危うく皿を取り落とすところであった。 し、しまったあぁぁぁ! こ、これはうわさ
に聞くジャパニメ−ション・オタク! そうとも知らず、自分は今日1日、この人
と差し向かいで呑気に(恐竜)世間話になど興じていたのか。あっぶね−!

 いったいいかなるいきさつでそんな話題に踏み込んでしまったのか、詳しい
経緯は知らないが、いったんオタクが自分の土俵へ相手をひっぱりこんだが
最後の助、もう雷が鳴ろうがサード・インパクトが起ころうが絶対に食らいつ
いて放さない。ほら、あなたにも心当たりがあるでしょ? 目の前の人間が自
分の話題についてきてるかどうかなどいっさいお構いなく、ひたすら取り憑か
れたようにメカやフィギュアやゲームや格闘技について一方的に語り続ける、
あの手の人たち。何とか新谷さんが態勢を立て直そうと、手塚治虫の話題な
ど振って相手の舌峰を逸らすべく試みるのだが、なにせデイヴィス氏は「8マン」
でジャパニメ−ションに開眼し、以来アメリカ製アニメの子供だましの他愛なさ
が心底いやになったという古強者、その当時は生まれてさえいなかった新谷
さんがかなう相手じゃない。どうやらこの人、いわゆる「キャラ萌え」の人らしい。
お気に入りの作品は「機甲創世記モスピーダ」と「マクロス2」と「プロジェクトA
子」だというから・・このラインナップを口にすると、アニメに詳しい人はみんな一
様に黙って俯くか目をそらす(中には、「本当にマクロス2と言ったのか? 7の
間違いじゃなく?」と念を押す人、「ダメダメじゃん」と一言で斬り捨てる人もい
る)・・いちおうはアニメ業界に関わりをもつ筆者にもまったく口をはさむ余地が
ない。

 だいたいこの3つにしたって、たまたまタイトルくらいは知っていたからここに
書けるので、あとはもう日本人でもきいたこともないようなマイナーな魔女っ
子もののタイトルなどがぽんぽん飛びだしてくる。何というシュールな展開!
俺はここにペルム紀四足動物の発掘の取材に来ていたのではなかったのか。
なんで俺は今、こんなところで「プリンセス・モノノケ」の世界観についての演
説なんぞ聞いているんだ。ここは誰? 私はどこ? コミケ帰りのゆりかもめの
中? 1970年代中頃のお茶の水の「丘」?

 ほとんどトリップしかけた頭を抱え、筆者が身を震わせてただじっと耐えてい
ると、「彼どしたんですか? 大丈夫?」とデイヴィス氏が尋ねてくる。いや、そ
れはね、誰のせいかと言えばあなたのせいなんですけどね。

 まあ、そういうわけでして、オクラホマでの最後の一夜は思わぬ馳走をげっ
ぷが出るほど賜り、本当に忘れられない体験をさせていただきました。デイ
ヴィス氏とは店の表で握手をしてわかれ、筆者はお2人に空港近くの適当な
モーテルまで送っていただいた上、明日の早朝のタクシーの予約までしてい
ただいた。もうかなり夜もふけていたというのに、お2人はこれからまたあの
道のりをたどり、エイダまで帰られるそうな。本当に、何から何までありがとう
ございました。では、また来年、ミネアポリスで会いましょう!

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