■SVP2002年度総会レポ−ト

 てなわけで、次の日の夕方、すべての講演が終わったあと、
NCEDの正面に次々とシャトル・バスがやってきて参加者たち
を博物館にピストン輸送し始めた。

 昨日は閑散としていた博物館のホ−ルには、何列にも長テ−
ブルの列が置かれ、事前に参加者が持ち寄った品がずらりと並
んでいる。これは、前座のサイレント・オ−クション用の品物で、
参加者は品物の前におかれたリストに自分の名前と希望入札
価格を書いておき、最後に一番高値をつけた人間が落札できる
というシステムである。

したがって、本当に欲しい物がある時はあわてて値段を書かず、
じっくり様子をうかがって、最後の5分で勝負に出るわけである。
落札までの2時間は食事兼下見の時間で、ホ−ルの奥には無
料のビュッフェとバ−(酒だけは有料)があり、料理はおかわり自
由の食べ放題である。毎度のことながら、SVPのもてなしの良
さにはほとほと関心する。どうして日本の学会はああビンボくさい
のだろう?

 料理を皿に盛り、ワイングラスを手にしてテラスに出る。テ−ブ
ルについてワインをちびちびやっていると、いろんな人が話しか
けてくる。こちらが、日本の恐竜雑誌のスタッフであったことを話
すと、5人の内3人までが「ディノプレス」あるいは「最前線〕のこ
とを知っていたのには驚いた。そういえば、誰が持ってきたのか、
「最前線」のバックナンバ−が何冊か台の上に並んでいたが、
けっこうな数の入札希望者がすでにびっしり名前を書き込んでい
る。悪い気はしない。

他にも、木村哲夫氏の作品とおぼしき恐竜折り紙、チョコラザウ
ルス、福井恐竜博物館のプログラム・ブックなど、日本から持ち
込まれたに違いない出品物がけっこう目につく。この、サイレント・
オ−クションの出物がなかなかばかにならない。地方の小さな
博物館の紀要に掲載された珍しい論文などが、さりげなくガラク
タの間にまぎれこんでいたりする。

 筆者が目をつけていたのは、海棲爬虫類のTシャツであった。
Tシャツはここの定番だが、中にはタイプ標本の写真をデ−タ入
りでそのままシャツにした、マニア心をくすぐるものもある。とりわ
け、カンサスのスタ−ンバ−グ博物館が作った、モササウルス
類の写真入りの奴はぜひ欲しいと思っていたのだが、いよいよ
締切り5分前のコ−ルがかかり、会場が騒然とし始めた頃、筆
者がリストに値段を書き込むと、すかさずその後ろにより高値を
つける奴がいる。

見れば、失礼ながら筆者よりさらにアメリカンな体型の、どっか
の院生とおぼしいお姉さんである。おいおい、あんたこれ買って
着られるのかよ、と思わず腹の中でご忠告申し上げたが、考え
てみると、こっちだって着るつもりでシャツを買おうとしているわ
けじゃない。マニア心がそうさせるというだけの話だ、
2人の間に一瞬ばちばちとア−ク放電が走り、もう1回ずつ競り
合いがあったが、こっちは海外からの旅行者で、まだこれから先
の旅程も長い。と、思ったとたん戦意を喪失した。

「お−け−。ゆ−・うぃん」と、あっさり旗を下ろす。結局手に入っ
たのは、写真ではなくモササウルスのイラスト入りの、これはこ
れでしぶい奴だった。

 サイレント・オ−クションが一段落したところで、会場を模様替
えし、いよいよオ−クション本番である。こちらは稀覯書や化石
など、本格的なコレクタ−ズ・アイテムが競売にかけられ、値段
も相当なものになる。下見用に競売品がすでに並べられている
が、中でも目を引くのは、マ−シュの自筆サイン入り著書である。
冨田先生が、君買ったらどうだとけしかけるが、最低入札価格が
600 ドルと聞いたところで失礼しましたと申し上げるより他はない。
まあいいか。どうせ今夜はお祭りを見にきたんだ。

 ビールを片手に待つ程もなく、オークショニアとアシスタントのミ
ニスカお姉さんが現れ、場を一気に盛り上げて、ロットナンバー
1番から威勢良く競りが始まった。英語の競りという奴は独特の
リズムがあって、意味はわからなくとも聞きほれてしまう。その内
酔いも回って、あ−もうマ−シュがなんぼで売れようともうど−で
もいいや、という気になったきた。そろそろここらが潮時か。実に
楽しい一夜であった。


サイレントオークション


「恐竜学最前線」誌も

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