■SVP2002年度総会レポ−ト

サム・ノーブル博物館
SVP2002ホストとなったサム・ノーブル博物館

 講演の中では、スト−ニブルック大のキャサリン・フォ−スタ−に
よるケラトプス科の系統学の話が興味深かった。ケラトプス科に含
まれるセントロサウルス亜科とカスモサウルス亜科の共有派生形
質のリストをチェックしたところ、フリルの形態やホ−ンレットなどに、
新たに有効な指標となるものがたくさん見つかり、30項目のリスト
ができた。それに基づき、カスモサウルス属を検討した結果、この
タクソンは単系統ではなく、これまでC.sternbergiとされていた種は
ペンタケラトプス属の系統に含まれることが判明した。

 これに続いて、ジョン・ホ−ナ−は角竜類のフリルに見られる血管
溝を、現生の鳥や哺乳類の同様の構造と比較し、これが角質組織
に血液を供給するためのものであること、角竜のフリルが角質で覆
われ、特に泉門は裏から光が透けて見えた可能性があることを指
摘した。これは、彼らにとって、自分の興奮状態を知らせる絶好のコ
ミュニケ−ションの媒体でもあり、彼らは発情期や敵への威嚇の際
には血流量を増大させてステンドグラスのように泉門部分のフリル
の色を変えていたかも知れない。と、言いつつホ−ナ−がパワ−・
ポイントの映像を切り換え、イラストを見せると、会場はおおいに湧
いていた。

余談だが最近は講演者がみなパワ−・ポイントを使い、要点を全部
まとめてスクリ−ンに写したり要所要所でアニメを入れてくれるので
とてもわかりやすい。英語の聞き取りがまるでだめでも、画面さえ見
ていれば8割がたは講演内容が理解できる。けっこうな時代である。

 最近、小学館のコマ−シャルなどでも何かと話題の、カミナリ竜の
首のポジションについては、垂直に首を立てる復元の得意なグレゴ
リ−・ポ−ルがやはり反論を試みている。

ご承知のように、カミナリ竜の首のポジションに関する議論は1999年
のスティ−ブンスとパリッシュの論文によって火がつけられた。彼らの
コンピュ−タ・シミュレ−ションによれば、少なくともアパトサウルスや
ディプロドクスなど、ディプロドクス科の恐竜は首を根元から垂直にも
たげることはできず、頭の可動範囲は上下6〜8メ−トルに留まる(そ
のかわり頭は水面下まで届く)というものだった。

まあここまでは納得できる。確かに、ディプロドクスやマメンチサウル
スの首はあんなに根元からばきっと上に曲がりゃしね−よ、という声は
早くから日本の恐竜ファンの中にもあった。ただ、その後スティ−ブン
スらはブラキオサウルス科についても同様の事を言い始め、ブラキオ
サウルスの頸椎の関節窩−関節突起をつないでいくと首は逆U字型
に曲がるだとか、首をもたげるには頸肋がじゃまだとか主張したため
話はおかしくなったのである。

まあ、常識的に考えて、ブラキオサウルスのあのプロポ−ションが、よ
り高いところの植物を食うための適応であったことに議論の余地はな
いだろう。一方においてそういう適応が起こり、もう一方でそれを無に
するような適応が起こるというのはどう考えても変だ。

ポ−ルも現生のキリンとブラキオサウルスの骨格を比較し、両肩甲骨
の間の隆起部の類似やその周辺の応力分析から、ブラキオサウルス
の通常の姿勢がキリンに近いものであったことは明白だとしている。

 しかし、当のスティ−ブンスとパリッシュの興味はすでに他に移って
おり、今回の発表は、これまでなぜか誰も重視してこなかった恐竜、
とりわけカミナリ竜の肋骨籠の正確な復元にまつわるものだった。彼
らが例によってコンピュ−タ・シミュレ−ションで解析した結果、アパト
サウルスやカマラサウルスの肋骨籠は従来の復元より腹側後方に
傾きが大きく、肩甲骨の付き方はもっと水平に近く関節窩はもっと腹
側向きになるべきだと言う。
いずれ近いうちに、彼らはまたこの解析結果に基づく画像を発表する
だろう。

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