5.バルスボルド博士のお話

 昼食後、すでに到着したバルスボルド博士に挨拶に伺った。
一行の大部分は中里村恐竜センターのホームページ作りに 関わってきた「サポート隊」のメンバーだ。ホームページの プリントアウトを携えてゲルにお邪魔する。通訳は、例によって オユンナさん(歌手ではない)。彼女は今年、フルンドッホの 発掘村の村長をしているそうだ。
 博士は、写真のように軽装もいいところ。また一見してとても 丈夫そうに見える。型どおりの挨拶のあと、博士の話を拝聴する。
 以下は博士の話をオユンナさんが通訳し、私がメモしたものです。 大意はそんなに落としていないつもりですが、細かい点が抜けている と思います。そのつもりでお読みください。
「ここではプロトケラトプスは、よく見つかっています。格闘化石も 幼体15体の化石もプロトケラトプスです。表面から見ると全部プロト ケラトプスです。モンゴルでは、5種類のプロトケラトプスがいます。 一番よく見つかっている。できれば完全なものなら貴重な発見になり ます。
ツグリキン・シレは、モンゴルで一番豊かな化石産地の一つです。 化石が出ている面では、世界でもトップです。中国、アメリカと 比べても一番豊かです。世界で見つかった珍しい発見の二つは、 ここで見つかっています。ハドロサウルスの幼体化石 もここです。主にプロトケラトプス、ヴェロキラプトルが 見つかるが、オヴィラプトルはいいものがまだ見つかって いません。また、ツグリキン・シレの北東4kmのアラグ・テク では、ピナコサウルス(ヨロイ竜)が見つかっています。 世界で唯一しかないでしょう。あと、保存のよくないダチョウ 恐竜、ここにいる間に皆さんご覧になると思います。
 この下の方に石器時代の遺跡が見つかります。石器のナイフ のようなもの、刃が波打ったような形の道具も見つかります。
 手前の砂丘は、かなり有名なものです。雨が降ったあと、キノコ も出てきます。後ろ側の大きな山、アルツボルト山も、かなり有名 です。アルツは「コケ」という意味。チンギスハーンがタングート (西夏)と6回闘った時に、その麓に陣を布いたのです。タングート は、モンゴルの南西の方、かなり発展した文化で自分の文字も持って いました。チンギスハーンは6回戦い、本人も破れ、タングートも 滅びました。」

質問:ツグリキン・シレは、どこからどこまでを言うのですか?
「ツグルクは、丸くて平らな所を言います。この崖の平らな所を言います。 ツグリキン・シレの一部は、さっき言ったアラグ・テクも入ります。」

質問:ここは昔、海の近くでしたか?
「恐竜時代には海がありませんでした。その前にはありました。サンド パイプは動物の遺物も植物系のものもあります。必ずしも海に関係あり ません。恐竜時代には、湖や川が多く、砂丘がありました。」

質問:ここでは恐竜卵化石も見つかりますか?
「いくつかの種類が見つかります。午前中、皆さんが行った場所の 裏側から見つかります。丸、楕円形など。」

質問:恐竜は、どんな環境で生活していましたか?
「種類によって違うし、どの環境で生活していたかは難しいです。 こちらの環境は、1936年にアメリカのモーリスという学者がバヤン・ザク に来て、湖や川があったと、しています。
 卵は砂丘に埋まって残ったというのは、当時は恐竜は砂丘に住んでいた のか、砂丘に産卵しに来たのかは、わかりません。
 サウロルニトイデスは最近はほとんど見つかっていない、プロトケラト プスは多い、こういう環境に常に住んでいただろうが、ほかの恐竜は、 行ったり来たりしていたかもしれません。当時はカメもここには生息 していました。二枚貝も一つ二つ見つかっています。」

「フルンドッホで見つかった化石は、一番目は、カメ、プシッタコサウルス の一部、若いハンプソサウルス、最終日はハンプソサウルス(頭骨70cm 位)です。これは、帰る日、バスに乗る2時間ほど前で、見つけた人は 小柄な女性です。三番目のグループの発見は、小さいハンプソサウルス、 二人別々に一人は尻尾から、もう一人は頭から発見しました。二番目は 彼女が一人で小さいハンプソサウルスを発見しました。
 中里村で展示しているハルピミムスは、フルンドッホの黒い地層から 発掘されました。ハルピミムスも黒いです。去年、武井 さんが発見したハルピミムスは新種です。頭以外の全部が クリーニングされました。長さ2m位です。今、フルンドッホに持ってき てあります。」

質問:ダチョウ恐竜は、主に何を食べていましたか?
「本や雑誌には、固い大地を素早く走り、哺乳類から昆虫まで捕食したように 書いてあります。タルボサウルスのように攻撃して食べるのではないです。 骨格を見ると、タルボサウルスのように強くなく、前脚の筋肉が弱いです。
 今年、内蒙古自治区の産地で1箇所で10体くらいのダチョウ恐竜が 見つかっています。その見つかったダチョウ恐竜の腹の部分からは胃石が 発見されました。肉食恐竜にはないものです。今年の発見が、もっと研究 されれば、ダチョウ恐竜の起源は肉食で、肉食の骨格を持っているが、 植物食であると、はっきりするでしょう。私は現場ではっきり見ました。 胃の中に何があるということは、日本の研究者もいたので(冨田氏)、 研究がはっきりすれば一番最初の新しい意見として情報は日本の新聞に 掲載されるでしょう(注:もう報道されています)。
 オヴィラプトルも何を食べていたかはっきりしません、 卵でないとは、はっきりしましたが。卵を食べる動物と、口の構造が 違います。人間も卵を食べますが、卵のための口の構造はして いません。たぶん、植物のタネとか木の実など固いものを食べていた のでしょう。ティラノサウルスは肉食だったが、攻撃したのか 腐肉食だったのかわからない。オヴィラプトルも腐肉食だった かもしれません。
 胃石の見つかったダチョウ恐竜は、ここから南、国境から 150kmほどのところで見つかりました。私の自信のないのは胃石と コプロライト(糞石)。」

質問:10体以上みつかったダチョウ恐竜は、随分小さいそうですが?
「(両手を80cm位に開き)時代はツグリキン・シレと同じです。ダチョウ型恐竜 の進化はモンゴルではっきりわかります。(と、ここまで書きましたが、ダチョウ 恐竜についての私のメモがミミズの腸捻転になっていて解読不能なので、要旨は アンクルディノさんの報告を引用いたします)」

アンクルディノさんの報告
ダチョウ恐竜について(ツグリキンシレ、バルスボルド博士)
共通した特徴(必ず入れること)
・ 骨格がきゃしゃである
・ 前肢の筋肉が弱い
・ 歯がなく、骨質のくちばし

内モンゴルで十体以上発見されたというニュースについて
チームに参加していたので、見た。
この場所は、ツグリキンシレと同じ時代である。
これは、ガリミムスに似ている、若い固体で1m ほど。ガリ ミムスとガルディミムスの間に位置するだろう。ただし、ガリ ミムスにより近いだろう。

食性について(上の件に関連して)
発見された化石の胃の付近に、胃石のようなものがあった。
本当に胃石か、それとも別の物かはよくわからない。 胃石であるとすれば、植物食だったのかもしれない。 研究の結果、肉食発生で、植物食ということになるかもしれ ない。

ダチョウ恐竜の発生について
アフリカで発生し、中央アジアで発展したのではないか。 これは、人と同じ。
ダチョウ恐竜は、進化の仕方が一番よく分かる恐竜だ。モン ゴルの発見によって、ジュラ紀の恐竜の研究が進めば、もっと よく分かってくるだろう。
(ジュラ紀の化石は西ゴビから出る。マメンチサウルスの一種 の足の化石が出ている。ちなみに来年は、西ゴビに連れて行き ます。)

中里の三体の比較
・ ハルピミムス 歯があった
・ ガルディミムス 後肢に親指があった
・ ガリミムス 進化の一番上の段階で、この恐竜を研究す ればダチョウ恐竜の進化が分かる。
中里の復元では、尾の鉄骨の長さが違うが、実際はだいたい 同じ長さだった。

ガリミムス・ ブラトスについて

ブラトスは、モンゴルから発見された物と、アメリカで発見 された物とがある。
モンゴルの物には、頭頂骨(?) と首に近い頭骨に空洞があっ て、頭骨自体がナス型をしているが、アメリカの物はそうなっ ていない。[ モンゴル産とアメリカ産があると言うこと自体を 知らなかったので、ちょっとよく分かりませんでした。びっく りしていて、きちんと聞けませんでした。情けない。阪本]

武井さんの新種新属について
後肢に親指があり、ガルディミムスと似ている。
ただし、以下の点がガルディミムスとは異なる。これらは、 ハルピミムスと共通した古い特徴である
・ 大腿骨が太くて丈夫
・ 腸骨がガルディミムスよりかなり長い
・ 前腕と指の間の骨の比率が似ている
しかし、親指が後肢にあることから、ハルピミムスよりもガ ルディミムスに近いと考えられる。[ 一度退化した物は、二度 と現れない。( ドローの法則)]その場合、頭骨はまだ発見され ていないが、歯は無い。
名前は、日本人は鶴が好きだと聞いたので、鶴に関係する名 前にしようと思う。「ツルミムス」ということも考えたが、ラ テン語に他言語を混ぜて使っては行けないので、「グルジミム ス」になるだろう。

ガルディミムスが危ない
1933年にエンゲルスという人のグループが、内モンゴルのエ レンホトで、アルヒ・ オルニトミムス(?) という恐竜を発見し た。( 不完全で前肢がある。頭骨は無い。後肢は不完全) これ が、ガルディミムスに良く似ているので、同じ種だとしたら名 前が変わるのではないかと心配。
しかし、骨盤が違っている。ガルディミムスは腸骨が短いが アルヒは他の中央アジア系のダチョウ恐竜と同じくらいの長さ がある。

プロトケラトプスついて
ツグリキンシレは、プロトケラトプスの群生地だった。この 地は、湖か海で、その回りに砂丘があった。砂丘に住んでいた か卵を生みに砂丘に来た。卵が出る。ペアで産んであり丸い。 ( その外には、ヴェロキラプトル、オビラプトル、ピナコサウ ルス、サウロルニトイデス、が出る)
背骨の構造や数がいろいろで、面白い。環境の差から変わっ たのだろう。
エリ飾りが大きい物と小さい物がある。オスメスの区別があ ったのではないだろうか。
プロトケラトプスは、一般的に角の無い姿で復元されている が、角が無かったら角竜とはいえないのではないか。違う分類 を考えなくてはいけないかもしれない。トリケラトプスなどの はっきりと角のあるタイプの恐竜の角は、骨でできている。プ ロトケラトプスには、骨質の角があったのかもしれない。いず れにせよ、角竜と厚頭類を合わせた分類として提唱されている 「周飾頭類」の一種類として考える必要があるだろう。

 以上、アンクルディノさんの報告でした。

 そのほか、博士はこんなことをおっしゃています。
「皆さんのように特に恐竜に興味がある方は、ジュラ紀の地層 がある西モンゴルに連れていきたいです。風はあるが、砂嵐は 無い、地層はあるが、化石の発見は少ない所です。最近、アメリカ とモンゴル共同の発掘で、マメンキサウルスと同類を発見しました。 竜脚類は、あまり進化していません。肉食恐竜は、進化の面では かなり変化しています。同じ種類の足の肉食恐竜はいません。が、 竜脚類の足は、皆同じです。ヨロイ竜も、進化の面ではあまり 変わりません。一番面白いのはプロトケラトプスの背骨の構造 がいろいろあることです。進化の中では背骨の構造は変わらない ものです。いろいろな背骨があることは、プロトケラトプスが いろいろな環境で暮らしていたことを示しています。恐竜を 研究するためには、こういった細かいポイントが重要です。
 ガリミムス・ブラトス アメリカ産と違うのは、頭骨の一番上 に孔が空いている。アメリカのものには無い。マス型というか、 そういう形の骨が頭と頸が着いている所にある。」

 そろそろ砂嵐もやんできたので、我々の発見した化石を鑑定 しに、崖下に下りることになったのでした。
(右の写真は、中里村恐竜センターのホームページのプリント アウトを読むバルスボルド博士)