3.砂を噛む思い

 さて、翌11日いよいよ目的の地、約束の地、ツグリキン・シレ に移動である。ツーリストキャンプから北西に約2時間半。 電柱と平行に走った道から右にそれる。
 ラクダの群に出会い、一休み。彼らに挨拶を試みる者、 まわりの広さにただ立ちつくす者、草原の花を手に取る者。 あまりに戻ってこないので、遂にジープが迎えに来た。



ゴビの花。ハーブの一種らしい。食べるとネギの匂い。



これもゴビの花。



これもまたゴビの花。名前は知らず。



 途中、町を通り抜けた。ボルガンというそうだ。過ぎると 草がまばらになり、徐々に半砂漠に植生が変わっていく。馬の群、 ラクダの群を追い越し、やがて目の前に砂丘が現れた。

 このあたりでは有名な砂丘らしい。○○と日本人は高い所に 上りたがる。皆、てっぺん目指している。上から眺めると、向こうの崖の上 にゲルが見える。そこが目的地。ツグリキン・シレのキャンプだ。あと、 もう少し。






 これが、我々の本拠地。ゲルが2つ。台所を兼ねたテントが1つ。 ここで、スタッフを紹介しよう。まず、ガイドのツェツェグダリさん。 "もののふ姫"といった感もする人だ。もちろん日本語は堪能。日本語教師の 研修で訪日経験もある。発掘指導はアルンチムクさん。 迷彩服に身を固めている。こちらも女性。日本語は ダメと思っていたら、数日たつと少し話した。寡黙な感じの人。どちらもとても 丈夫そう。ドライバー氏が2人。残念ながら、名前は聞き忘れた。しかし、あとで わかったのだが、ただの運転手ではなかった。そしてコックのアジャバートル君。 日本語は話せないながら、機会をつかまえてはコミュニケーションをとろうとした。




 その頃から西風が勢いを増してきた。ゲルが飛ばされないよう、天井にも重しを 縛り付ける。ダモクレスの食卓って感じ。
 さて、その食卓で昼食。出てきたのはシシカバブとおぼしき串刺しの肉。 あごが丈夫になる前にこわれそうな硬さだった。3日たっても後遺症に悩む某W さんがいたほどだ。お茶をむさぼり飲んで何とか肉を呑み下す。その間にも風は いよいよ強くなり、砂が飛び出した。これが雪なら地吹雪というのだが。
ゲル入り口脇のベッドに陣取った(というよりも、そこしか空いていなかった) アンクルディノさんなど、既にうっすらと砂化粧している。正直言って(えっ、 こんな天気に発掘するの?)という気分。







草の風下に砂がたまる。まだこの時は爽快の度を超した程度。


 とはいえ身支度をし、崖を下る。アルンチムク (以下アルガさんと略称)さんによれば、この地層は50mの 厚みがあるが、下の20mほどに化石があるという。5年前に来た時は、砂がこんなに なかったそうだ。
 やがて、それぞれ勝手に化石を探し回る。ここの化石は色白なので、遠目にも わかる。去年のフルンドッホでは、茶色や黒の化石もあり、識別がとても難しか ったそうだ。見つかるとアルガさんを呼び、鑑定を待つ。しかし彼女の専門は 無脊椎動物。恐竜に関しては何やらアンチョコ本で確認をする。私も一度彼女 を呼んで露頭の骨を見てもらったが、英語で「あなたは今これを発掘する? もっと探せばもっと興味深い化石が出ると思うけど。」と言われると、やはり 「探します。」と答えてしまう。そこに石を積んで目印にして、探索を続ける。
 探索といっても地面を見て気になったら刷毛で露わにしたり、掘ってみるだけ のことだ。そうこうしているうちに、風速20mくらいなのだろうか。砂はいよいよ 激しく飛び、ヤスリを顔にかけられているよう。とても風上に向かって立って いられない。結局6時半頃で終えた。ゲルに戻ってから、ねこまたぎさんに 「今日はまた昔のことばを実感したね。」と言うと「何?」と尋ねるので 「砂を噛む思い」と答えると、彼女は吹き出した。

 砂かけ爺、砂かけ婆となった。頭を掻くと爪に砂がザクっと入り込む。これは 帰路、ツーリストキャンプでシャワーを浴びるまで、そのままだった。


4.地見屋稼業

 発掘の毎日のスケジュールは、こんなものだ。8時頃までに起床(日の出は7時頃)。 朝食後、9時頃から化石探索。午後1時頃昼食、そしてシェスタ。3時頃から午後の 探索。午後7時半頃から夕食、あとは自由時間。日没が午後10時頃なので、外で酒を 飲む者あり、ゲルの中で休む者もある。

 12日午前中は崖の西側で探索。斜度は5度から40度位だろうか。幾筋も尾根、谷が 連なり、遠目には地面が波打っているかのようだ。人によって探し方も違う。私など は、谷筋を登りながら化石の破片を探し、見つかると、水の流れに沿って上方を窺う やり方。また、MINEWさんは、ひたすら峰を横切り白いものを探しているようだ。 誰のやり方がベストなのだろう。判っているのは4時間近く斜面を上り下りして、 いい運動だということだ。昨日の経験から、化石を見つけても、そばに石を積んで 目印をつけたら次を探すことにする。今日はバルスボルド博士がフルンドッホから こちらに来ることになっている。鑑定は午後だ。


私が発見した化石


林原?他の誰かが発掘したプロトケラトプスの頭骨。


HYPERSAURSさんが発見した頭骨。
プロトケラトプスとは歯が違うと、
アルガさんも真剣になった。