25 竜とわれらの時代竜とわれらの時代表紙
   2002年10月18日発行 川端裕人
   徳間書店刊 四六判444ページ ISBN:4-19-861585-3
   本体2,000円
  「夏のロケット」、「ザ・スープ」など、サイエンスに基礎を置きながらストーリー
 でも定評のある川端裕人氏の最新作。小説的感興と知的興奮を何度も味わえ
 る。日本が手にした最高の恐竜小説。

 主人公は、恐竜をはじめ中生代動植物化石の産出で知られる手取層群のある
 地域、架空の手取郡で育った古生物研究者。 
 渡米し師事した教授のチームの一員として、手取層群の発掘を行う。

 その白亜紀最前期層から、マメンチサウルスとティタノサウルスの特徴を併せ持
 つプロブレマティック な竜脚類の全身化石が出て(のちにテトリティタンと名付け
 られる)、あれやこれやの大騒動が始まるというストーリー。

 主要登場人物は、地元出身の古生物学者の卵、元宇宙飛行士志望の技官、キ
 リスト教福音派の活動家、イスラム過激原理主義者……等々いろいろ

 なぜ、こんなに多様な登場人物が出てくるのだろう?その訳は、書名に端的に
 表れている。”竜”と”われらの時代”。恐竜をメインとしながら、”われらの時代”
 に渦巻く諸問題をサブテーマとして絡ませているからだ。

 主人公が師事した教授は、後に進化論を認めないキリスト教団体が発行する
 科学誌の編集に携わるようになる。日本では考えられないことだが、米では、
 進化論に反対する勢力も強く、カンザス州では進化論を学校で教えないと議
 決されたほどである。

 一方、恐竜は文化的にきわめてアメリカのものである。世界中で日本とアメリカ
 人ほど恐竜好きな国民はいない。中国など、あれほど瞠目させる化石の発表は
 あるが、一般人民レベルでは恐竜など話にも出ない。
 アメリカ人にとって恐竜とは何なのか、そのあたりもこの小説に広がりを与えて
 いる。

 目を転ずれば、アメリカ文化は今や世界標準として他の文化を蹂躙しているか
 のようだ。とりわけイスラム世界からの反発が強い。イスラムは古代ギリシャの
 遺産を西洋に橋渡ししたが、今では文化的にも経済的にもアメリカという恐竜に
 踏み荒らされている。そこから、ホメイニ、サダム・フセイン、オサマ・ビンラディン
 などその反対者が現れ、過激グループがテロに走っていることは承知のとおり
 である。

 日本はどうなのだろう?私たちにとって恐竜とは?
 夏休み中のイベントを通して付き合うものなのだろうか。子供時代の一過性の
 対象なのだろうか。
 小説中の手取群の老婆は、竜神様として信仰し、頭蓋骨をご神体として守る。
 日本人にとってはこれが自然なのかもしれない。

 と、ここまで書くと何やら読むのが大変?と思うかもしれない。が、実際は息も
 つかせず、読ませる小説。私など、ゲラが届いてから半日読みっぱなしだった。
 久々にセンス・オブ・ワンダーを感じさせた。
 恐竜発掘から研究・展示にからみ、上に述べた様々な伏線で、舞台も手取郡
 からアメリカに広がり、時の広がりも老婆の夢に出る白亜紀、竜神信仰の伝統、
 手取郡の民俗など深みを与えている。

 古生物学的なレベルを見ても、著者は研究者、論文、現地などしっかり取材し
 た上であることが読み取れる。生半な恐竜本より最新情報も押さえ、信頼でき
 る。
 巻末で真鍋真氏が解説しているように、手取での研究は、「ジュラ紀から白亜
 紀への変化を、生態系を出来る限り復元し、その進化を明らかにしようとする新
 しい試み」。小説中、主人公たちが行った研究は、すでに実際に実行され、その
 成果の一端は2002年夏、千葉県立中央博物館でも展示された。

 表紙は、小田隆氏描くテトリティタン頭蓋(もちろん科学的根拠に基づいて)。
 恐竜ファンはもちろん、SFファン、一般の方にも自信を持ってお薦めできる。
 秋の夜長、たとえ徹夜しても読みたい本だ。