「鳥のルーツを探る」シンポジウム
鳥のルーツを探るシンポジウム左から陳丕基、董枝明、侯連海
1999年3月21日に名古屋市科学館で開催されたものです。
ところが、メモを文章化したのが、約2か月たってからなので、
大分忘れてしまっています。公開する価値があるのか・・・
そんな程度のものです。

 司会は東洋一博士がつとめ、まず、陳丕基、董枝明、侯連海の
3人の研究者がスライドを交えながら講演をしました。ついで東博士
の進行にもとづき3研究者のシンポジウムになりました。

なお、最初の陳丕基教授の講演は、国立科学博物館での講演と殆ど
同内容だったため、省略します。

董枝明
中華竜鳥について
・トリなのか恐竜なのか
・トリと恐竜の関係について
・進化の過程の中で中華竜鳥の体の特徴

スライド
1中華竜鳥の亜成体、成体2体
 羽毛状のものがある。この百年来恐竜化石では初めての発見。
完全に羽毛とはなっていない。羽毛状構造物。
 骨格構造は完全に恐竜と同じ。頭骨構造から小型の獣脚類。口
には肉食恐竜と同じ歯がある。前肢は後肢の・3/1しかない。

歯の拡大
 肉食恐竜特有のセレーション(ギザギザ)がある。始祖鳥の歯とは全く違う。

卵の拡大
 卵が体内にある恐竜化石は初めて。

腹中のトカゲ
 成体の体内にある。ヤベイノサウルスではないか。

プロトアーケオプテリクス(原始祖鳥)
 多くの研究者は、これも恐竜と考えている。これにも羽毛状構造が見られる。
前肢が長くなっている(後肢の1/2)。中華竜鳥よりはトリに近いものではない
か。ただし、中華 竜鳥と同じ地層で生息している。

カウディプテリクス(尾羽鳥)
 尾部にはっきりした羽毛状の構造がある。歯は恐竜と同じような歯。
 いずれも叉骨が欠けている。胸骨が発達していない。トリは発達した胸骨が
ある。

ノプシャの想像した走行型原鳥Proavisの復元図
 1907を元にSigrid K.James描く。 羽毛状構造物は飛ぶためより1性別の識
別、2体温の保温、3飛ぶため

中華竜鳥発見の意義
 オストロム達の研究しているドロマエオサウルスなどは、時代が遅い。白亜
紀前期。大きさも2、3mある。進化の過程で大きな体から小さくなっていくのは、
可能性があまりない。恐竜には叉骨がないこともあり、トリの恐竜起源に反対
していた。しかし、モンゴルで発見されたオヴィラプトルには叉骨があった。今
回の中華竜鳥の発見で叉骨があると断定できる。また、温血であるともいえる。
オヴィラプトルが卵を孵化することができるのも温血だから。トリの恐竜起源説
は、かなりの支持者を得ている。

中華竜鳥が発見された地層の年代について
 董枝明自身は、白亜紀前期と考えている。絶対的年代を考えると白亜紀とし
か考えられない。鳥類学者も、始祖鳥と比較すると孔子鳥は進歩しているといっ
ている。プシッタコサウルスも発見されている。プシッタコサウルスは東アジア
では典型的な白亜紀の動物。しかし、ジュラ紀的な翼竜も発見されている。
 名古屋城の展示で草鞋を見かけた。(人が)草鞋を履いていると江戸時代と
咄嗟に思うが、片手にコンピュータを持っていれば現代の人とわかる。要するに、
新しい要素を以て時代を判断すべきである。プシッタコサウルスは過去にジュ
ラ紀から発見されていない。

トカゲの尾について
 中華鳥竜の腹中のトカゲの尾が見つからない。逃げるトカゲの尻尾を切ってか
ら飲み込んだのだろうか。(東補足。董との雑談ででた話ということ)


侯連海 鳥類の話
 最近、トリシンポジウム(米イェール大)に参加したばかりだが、今回、トリの飛
翔の起源について解明できれば幸いです。
 中国における初期のトリの研究は、この10年に大きく進歩してきた。私は中華
竜鳥の地層年代については、陳と同じにジュラ紀後期と考えている。(スライド:
小型獣脚類(毛の生えた)とトリの争いの絵)

恐竜とトリの関係(スライド)
1 始祖鳥、羽毛、翼
2 中国のトリ化石産地分布図
3 四合屯
4 化石現場
5 孔子鳥の現場
6 昨年の尾羽鳥の現場
7 野外調査
8 孔子鳥('94)
9 孔子鳥と現生のトリの頭骨
10孔子鳥骨格図

孔子鳥
 上腕骨に気嚢孔がある。体重を減らす効果。胸骨も始祖鳥より発達している。
腰部は始祖鳥と同じ。ジュラ紀の鳥である。第5中足骨が残っている。四合屯だ
けでも1,000体以 上出ている。恐らく地上生活をしていたと思われる。孔子鳥の
中にも細かい点で違っているものがある(種の違いをいっているようです)。

シハン鳥
 始祖鳥に似ている。最も原始的な反鳥類(エナンティオルニス類)。

リョウセイ鳥 孔子鳥で最も新しい、中生代で最小のトリ。前肢の爪なし。飛翔能
力も強くなっているが、後肢は前肢よりだいぶ長く、尾も長い。胸骨も小さい。進
歩的な特徴と古い特徴が共存している。

遼寧鳥
 孔子鳥より進歩し、胸骨が発達している。竜骨突起が見られる。現在のホトトギ
スに似て指骨が長くなっている。ジュラ紀後期は鳥類発生の時期ではなく、ここか
らいろいろな鳥類が分かれていくポイント。

カタイオルニス 遼寧省西部で'92発見の化石。歯あり。頭骨は始祖鳥と類縁性あ
り。

ボルキア
 猛禽類に似ている。ダイカク鳥 カラスの様。

シノルニス
 '92ボルキアとよく似ている。

朝陽鳥
 筋肉や骨格は現生のトリとよく似ている。

ガンサス
 '84後肢ジベインア ジュラ紀後期を境目に鳥類の2大グループ、古鳥類と新鳥類。

中華竜鳥復元図
 全身に羽毛状のもの。侯教授は羽毛とは考えていない。だからトリとはあまり関係
ないのではないか。鳥類は小型獣脚類から進化したとは言い難い。  

飛翔のメカニズム。前肢の進化による。

始祖鳥と孔子鳥はまだ翼と  の骨の愈合がされていない。だんだん愈合されていく。
飛翔の起源としても樹上から説と地上から説がある。中国の研究者は樹上説を支持
している。

討論
東 陳に 熱河動物群の生息環境について

陳 化石は20種以上。水中は昆虫幼虫、地上では小型獣脚類、カメ、植物。豊富な
  食物連鎖があった。気候は乾燥していた。

東 なぜ、大量の動物が短期間に死んだのか。

陳 当時、遼寧省は火山活動が活発で、火山灰の降灰で一気に孔子鳥が死んだの
  ではないだろうか。湖の水面にに突然沢山の孔子鳥の死体が落ちたのではない
  か。リコプテラ(魚類)も40体以上幼体であった。一気に火山活動で死んだのだろ
  う。

東 董に 侯は中華竜鳥の羽毛状のものは羽ではないと言ったが、董の見解は?

董 中華竜鳥の羽毛状のものについては、学者によって違った見解がある。1つは羽
  毛ということばは適切でないので「前羽毛」、もう1つは、侯の見解のように爬虫類
  の体に生えている剛毛のようなもの、さらにもう1つは、毛が皮膚の表面でなく中に
  あると考えるもの。昨年4月にフィラデルフィアで開かれたシンポジウムでも、一部の
  学者は筋肉の繊維でないかと言っている(比較したのはワニの筋肉繊維)。

東 図録の中に新たな肉食恐竜で羽毛とあるが・・・董 3種類ある。昨年、同じ場所で
  2つ。1つはセグノサウルス。4m。羽毛あり。もう1つは研究中。ドロマエオサウルス
  に似ていてこれにも羽毛がある。これれにより小型獣脚類に羽毛状構造物があった
  ことを示す。体温を保つためである。トリの羽毛もこれから進化していった。四合屯は
  世界でも2番目のゾルンフォーヘンと言われている。ただし、ゾルンフォーヘンは海成
  層だが、四合屯は陸成層である。

東 侯に 始祖鳥はトリか恐竜か。

侯 昨年ある論文が発表された。根拠として歯は恐竜と違いセレーションが無い。脳が
  発達している。前肢の関節が恐竜と違う。腰も現生のトリに近い。叉骨は徐々に愈合
  されつつある。

東 トリの定義は?(中華竜鳥を恐竜とし、始祖鳥をトリとする)

侯 元々は羽毛をもっているかどうかという事だったが、中華竜鳥のものは本当の羽毛で
  はない。骨格に飛べるように気嚢孔があるかどうか。

董 私が言いたいのは、これらがトリか恐竜か争っているのではない。生物の進化の中で
  考えていかなければならない。進化の過程の中でトリと恐竜の二面性を持っている。
  形態上でなく分類上で考えるべきだ。分類は人為的で(研究者の)考えにより変わっ
  てくる。これらの化石は過渡期にあるもの。中華竜鳥はトリの祖先でなく姉妹グルー
  プである。

会場からの質問

名古屋大でニワトリを研究している先生
 鳥類は右の卵巣が退化して片側になっているが、恐竜であるうちに退化して片側になっ
 たのか。

侯 この問題は非常に答えにくい。孔子鳥は中華竜鳥のように内部構造がわからない。恐
  竜については2つの卵巣を持っていることが断定できる。卵を2つづつ産んでいる。

会場から馬場さん
   羽毛をもつ要因は、保温か飛翔かあるいはその他(虫を捕まえるなど)か。

陳  ご存じのようにヘビ、カメは冷血だが、私は一部の恐竜は温血と考えている。エネ
  ルギーを守るために羽毛の必要がある。保温のために出来たと思う。