国立科学博物館新館恐竜展示の解説5.8.99


左ティラノサウルス、右アパトサウルス、右手前パキケファロサウルス、ティラノサウルスの足下にカルカロドントサウルス真鍋真研究官
 科博の新館が4月24日にオープンしました。その地下1階には新たな
恐竜展示があります。
今回、教育普及活動としてその解説が行われた。8日の解説は真鍋真先生。
 スライドを交えた熱心な解説で、ますます恐竜に興味がわきました。以下、
解説を私がノートしたものです。記憶違いや理解の不十分な点もあるかと思
います。間違いはパンテオンにありますので、そのつもりで。

左からヘレラサウルス、バンビラプトル、始祖鳥、フクロウ(骨格)、フクロウ(カービング)ドロマエオサウルス類始祖鳥立体骨格

 展示骨格標本は全部で16体(恐竜でない始祖鳥とプレトスクスも含む)。うち8体は実物標本。
入り口を入るとフクロウのカービングが飛んでいる。その横には骨格標本が3体。
 なぜフクロウが最初か?トリの起源が恐竜という説が非常に有力になっているため、比較とし
て展示。横には始祖鳥の立体骨格(2年位前にオランダの研究所で立体的に復元した)、さらに
横にドロマエオサウルス類としてある。現在研究中のもの。バンビに因んだ名になる話もあるが、
記載前なので公式にはまだ使えない。
さらに横にヘレラサウルス。三畳紀の非常に古い原始的な恐竜だが、既に一見肉食恐竜の特
徴を持っている。これは、恐竜の起源がさらに古いことを示す。

 展示の特徴の一つに、さわれる標本があることがある。ブロンズ製のレプリカ。研究者も手の
感触でカーブや太さなどを確かめる。
 デイノニクスの左手、手首に注目。手根骨が半月状。滑車の様な面になっている。普通の肉食
恐竜は手首を上下に動かせるだけだが、デイノニクス、ラプトル類は左右にも動かせる。ジュラシッ
クパークのラプトルのようにドアノブの開けられる。マイケル・クライトンはよく研究している。何のた
めにこく進化したか?飛ぶこととは関係なく別の目的か?

 デイノニクスの回転模型(串刺しラプトル)頭の上や手首など普段見られない所を見てほしい。
回転させると画面のラプトルに注目してほしい箇所にマルがつく。
 画面にマルがついたら触ってください。産みの親、オストロム教授の解説がある。

 順路は特にない。何回でも来てほしい。
ヒパクロサウルス親ヒパクロサウルス子
 立っているヒパクロサウルス。親と2体の子。実物標本。一緒に発見された。
1匹で600本位の歯がぎっしりと並ぶ。咬合面を歯全部が合わさった一つの大きい面として使う。
 歯の動きを横に置いてあるロボットで示している。上下だけでなく、咬むと下顎に押されて上顎
が左右に開く。上下だけより、さらに細かく植物を砕ける。効率よく植物を採らないと生きていけな
いということは温血だったのではないか。ロボットは親から型どりした。

 とさかについて。とさかの形で種を見分ける。ランベオサウルスの頭骨3つを展示してある。大人
もコブ状のとさかと、角のように飛び出ているものの別がある(雌雄?)。赤ん坊はとさかがない。
これから、目で情報をキャッチする集団性・社会性を持った動物だったろう。

 展示企画段階から世界の15人の研究者に相談してきた。解説ビデオではその研究者達が疑問
に答える。ソフトは100本以上。ビデオは5月末を目指して最終版を確定する。
ニッポノサウルス
ニッポノサウルス(ヒパクロサウルスの後ろ側)戦前サハリンで発見された。ここ数年、北海道大学
が中心となり復元してきた。だが、完全には復元できていない部分もある。例えばとさかの部分は
発見されていない。ニッポノサウルスは、アジアのカモハシ竜の中でユニークと思われてきたが、
最近これは子どもの特徴であることがわかってきた。将来、別の恐竜の子どもとされるかもしれない。
しかし、命名規約の先取権の原則により、たとえばチンタオサウルスの子どもと判った場合には、チ
ンタオサウルスの方がニッポノサウルスと改名されるだろう。

 今日、たまたま発見者の先生のお孫さんが科博に見えていて、「祖父の発見した恐竜の名前が
消えてしまうと聞きましたが、本当ですか。」と聞かれた。「先取権によって残る確率が高いでしょう。」
と答えた。
 

パキケファロサウルス

パキケファロサウルス
 頭骨の厚いものと、薄いものが発見されている。雌雄の違いかもしれない。以前は正面から頭突
きする復元がされていたが、'94年に米サウスダコタで発見された標本により、頚部が弱いことが判
明した。横から首や胴を押し合っていたのではないか。
プレトスクス。後ろ左はカルカロドントサウルス、右はギガノトサウルス
プレトスクス
 恐竜以外の展示。プレトスクスはなぜ恐竜ではないか?(さわれる足の標本あり)
爬虫類のがに股状の脚から、恐竜は直立した脚になっている。体重を支えやすい、移動しやすい。
骨盤の寛骨臼。ワニ類は窪んでいるだけだが、恐竜は穴になっている。

アパトサウルス
アパトサウルス
 ワイオミングで発見された実物標本。全長18m。頸椎は15個。灰色の部分は
石を取り除いていないところ。純骨なので全部とると強度が弱くなる。くぼみによ
り、軽くなる、また筋肉が沢山付くようになる。関節部がボールとソケット状。
これは可動範囲が広くなる(上下も)。クシ状の歯で葉をこそぎとる。横にカマラサ
ウルスの頭骨があり、こちらはきっちりした歯で咬み切る。以前は歯の形で系統を
分類していたが、歯と系統は別らしい。

ヒプセロサウルスの卵?
 直径20cm位。ヒプセロサウルスの卵と言われてきたが証拠はない。
同じ層準から出てきただけ。
最近、大型のトリの骨盤が同じ地層から見つかった。トリの卵かもしれない。

骨の断面の顕微鏡写真スライド
 大腿骨の断面。顕微鏡で見ると線が入っている。これが木の年輪のような線であることがわかった。
これを数えることで年齢や寿命の研究に役立つ。20mの竜脚類で23年くらいかかっている。肉食恐
竜で1.5mになるのに8年というデータもある。
 年輪があるということは成長の不活発な時期があるということ。変温動物で冬季には成長が不活
発だったのかもしれない。しかし、温血のシロクマも気候の厳しい冬には年輪ができる。

ティラノサウルス(スタン)
ティラノサウルス
 ティラノサウルスは発見例が少なく、完全な骨格は殆どない。当館の展示はスタンのレプリカ。
走る速さについては、コンピュータグラフィックで再現すると時速17kmくらいでないか。一度転ん
だら短い手で支えられないので頭を打って大変。
 中足骨が狭まるのはティラノサウルスとダチョウ恐竜のみ。ティラノサウルスはダチョウ恐竜の
小型のものから進化したのではないか?
 カルカロドントサウルスとティラノサウルスの歯の比較展示がある。カルカロドントサウルスは一
般の肉食恐竜のタイプでナイフのように薄い。ティラノサウルスは丸く、歯の構造が全く違う。獲
物に歯をぐっと刺すやりかただったのではないか。
 頭骨の右側を分解して展示してある。普段は見られない内側からみることができる。新しい歯
が今生えている歯の内側から生えかかっている。2年に1度くらい生え替わっていただろう。

トリケラトプス
トリケラトプス
 実物標本。頭骨のフリルは、トリケラトプスはフリルが厚いが、他の角竜類は大きな穴が開い
ていたり、骨が薄かったりしている。首の防御というよりは模様や形で種や雌雄を見分けていた
のではないか。
 この標本は右半身しかない。発見した状態では左半身はもう無くなっていた。埋まっていた部
分をクリーニングしたところ、関節した状態であることがわかった。関節した状態の骨格は、世界
でも2例しかなく、これはそのうち良い方。しかし、尾と鼻の先はレプリカ。

エウオプロケファルス(手前)、ステゴサウルス(奥)
エウオプロケファルスとステゴサウルス
 ステゴサウルスはジュラ紀の恐竜で縦に骨板を発達させた。これが衰退したあと、白亜紀にヨロ
イ竜類が進化してきた。こちらは横に装甲を発達させた。エウオプロケファルスの展示は装甲を一
部しかつけていない。これは、骨格をよく見てもらうため。
 ステゴサウルスの背中の板は厚さ1cmくらい。防御の役には立たない。スジ−血管の跡。内部を
切って研究したところ、内部も沢山血管が入っているそうだ。自分を大きく見せる役割も持っていた
だろう。

絶滅に関して。
 展示を更新して新しい情報を追っていく。6,600万年前のサウスダコタの化石を2,000点入手
して研究している。温帯の暖かい場所だったようだ。恐竜の絶滅に関して、北米では7,000万年
前には20種の恐竜がいたが、白亜紀末には8種に減ったとする研究があるが、我々の研究では、
12種くらい恐竜がいた。哺乳類も他の場所より大きいものがいた。

会場での質問
スティラコサウルスとして展示されている頭骨に棘がないが?(小学生の男の子)
 こういう質問はパチンコ店なら「プロの方はご遠慮ください」と書いてある、出入り禁止の高度な質問。
 これは、ロイヤル・ティレル博物館に作ってもらったもので、自分も梱包を開けたときに、間違いで
ないかと思った。以前セントロサウルスとされていたものが、最近スティラコサウルスの子供である
ことがわかった。それで頭骨に棘がない。

トリケラトプスの関節した骨格から、その脚が直立だったかどうか判明したと思うが。
 前肢はがにまた状。後肢は直立状だったろう。(では、バッカーの復元のような疾走する状態は)
なかっただろう。ティラノサウルスの速さも時速17km、実際にはもっと遅かっただろう。それほど
速く走らなくてすんだだろう。

竜脚類の首に関して
 自分も子供のころいたずらをしてバケツを持たされたことがあったが、罪が軽ければ持つだけだが、
重くなると腕を横に広げて持つ。これがつらい。竜脚類も頭を横に出しているとつらい。上に持ち上げ
ていた方が負担が少ない。

他にも個々に質問を重ねる方もいました。閉館のチャイムが鳴るまで会議室及び展示会場で真鍋先生
の懇切丁寧な説明が続きました。本当にどうもありがとうございました。

リンク 荒木一成さんのページ(はるかに写真がいい)