中国科学院古脊椎動物與古人類研究所 侯連海 教授 講演会

2001年1123日、群馬県立自然史博物館で侯連海教授の講演会が開催されました。聴講する機会を得ましたので、かいつまんで報告いたします。侯教授は中国の中生代化石鳥類の研究では第一人者。トリの祖先は恐竜という説が有力になっているし、遼寧省の化石鳥類をいくつも命名している。教授のお話を聞き逃す手はない。そんな気持ちで出かけました。

会場は県博の会議室。30人も入れば一杯になる程度の広さです。侯教授は、アメリカでの学会発表のとき使った資料をパソコンに用意してきたのですが、県博ではプロジェクターを展示の方で使っていたので、スライドに急遽切り替えられました。

長谷川館長のあいさつ後、侯教授もあいさつ「おまねきありがとうございます。日本は2度目、講演も2回目になります。また、講演後のご質問を歓迎いたします。」
スライドは始祖鳥に始まり、中国産化石鳥類の年代に沿って順次紹介されました。
間に、若かりし頃、楊鐘健(C.C.ヤング)の学生だった教授の貴重なスナップや、遼寧省での発掘ショットも入っていました。

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年に名古屋科学館ほかで開催された「鳥のルーツを探る」展に行かれた方は覚えているかと思いますが、孔子鳥といっても1種ではありません。聖賢孔子鳥(Confusiusornis sanctus)、川州孔子鳥(C.chuonzhous)、長尾孔子鳥(C. sp.)、孫氏孔子鳥(C. suniae)、杜氏孔子鳥(C. dui)などいろいろな種があります。そのひとつひとつについて、主な特徴を簡単に説明されました。たとえば、“肩甲骨に穴が開いているのは、体重を軽くするためで、飛ぶことに進化した最初の鳥だ。長尾孔子鳥はオスだろう。川州孔子鳥は足が大きく地上を歩いた。杜氏孔子鳥にはキツツキのようなくちばしがあった。“などです。

この年代のトリを孔子鳥類群とまとめるそうです。また、地理的な分布から孔子鳥圏という用語もあるそうです。また、それより新しい年代の鳥類は、華夏鳥類群としてまとめられています。


 スライドは次々に年代の新しい方へ化石を映します。「中国古鳥類図鑑」に掲載されているイラストも、映しました。
 孔子鳥のあとは、始反鳥、遼寧鳥、遼西鳥、義県孔子鳥(これは年末に出版予定。その特徴もおっしゃいましたが、割愛します)、阜新で発見された孔子鳥、冀北鳥、内蒙古で発見された阿托克(アトカ)鳥、三塔中国鳥、華夏鳥、波羅赤鳥、竜城鳥(竜城とは朝陽の古名)、大嘴鳥、未研究の小さいトリ、朝陽鳥、松嶺鳥、長翼鳥、甘粛鳥、最後にシノサウロプテリクスといった順で紹介していきました。個々のトリの説明は化石写真がないとしにくいので割愛します。
 また、骨格の対比の図も映し、骨盤は封閉式骨盤(中国語では骨盆)から開放式骨盤に変化したこと(ニワトリの卵が大きいことを例に、広がったことを説明)、尾は長さが短くなっていったこと、前肢は各指が個別に広がったものから一つにまとまったことを説明されました。

 質問では、こんなものがありました。ただし、私のメモなので、必ずしも正しく記録しているとは限りません。
質問:始祖鳥と同じものは中国でも出ているか?
答え:出ていない。しかし、始祖鳥より早いと考えられるものが内蒙古から発見された。もうすぐ、私の学生である張福成がサイエンス誌で発表する。

K 1

|華夏鳥

(白亜紀)

 

|朝陽鳥

|中国鳥

|阿托克鳥

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J3

|遼西鳥 

(ジュラ紀)

|遼寧鳥

|始反鳥

|孔子鳥

(始祖鳥)

|冀北鳥

   
質問:始祖鳥を産出したヨーロッパと中国遼寧省の地層の関係は?
これについても通訳の方がちゃんと伝えられなかったようで、先生は遼寧省の地層について説明しました。

こんな図をホワイトボードに書いて、化石鳥の出る層の区分は年代ごとにはっきりしていると、説明されました。また、昨年、劉東生が地質のレポートをしているとのこと。遼寧は漏斗状の地層と考えていて火山の降灰で影響を受けたとしている。しかし他の多くの者は盆地と考えているとのこと。鳥化石は火山灰で生き埋めにされたと説明。

質問:中華竜鳥化石では、体内に卵や食べたトカゲなどが見えているが、鳥類化石でそれらが見えるものはあるか?
答え:卵や内臓は、はっきり見えないものばかり。見分けがつかない。

質問:火山の爆発による降灰で化石ができたというが、火山は発見されているのか?
答え:北票で発見されている。

まだ質問はあったのですが、割愛します。講演後、中国古鳥類図鑑にサインをいただいて、とてもうれしかったです。



  1 侯 連海(Hou Lianhaiホウ・リャンハイ:中国科学院古脊椎動物與古人類研究所教授)
  
1935年山東省単県生。1961年蘭州大学生物学科卒。
  中国鳥類学会会員 世界SAPE(Society of Avian Paleontology and Evolution)会員
  長期にわたり古鳥類や爬虫類化石の研究に従事。
   著書「中国中生代鳥類(Meszoic Birds of China)」など

2 遼寧省 中国東北部の省。旧熱河省の東部をなす。遼東半島に対し大陸部を遼西と呼ぶようです。右図は遼西化石産地の略図。

3 楊鐘健(C.C.ヤング) 中国古生物研究者の草分け。チンカンコウサウルス、ディアンチュンゴサウルス、ルーフェンゴサウルス、チンタオサウルスほか数種を記載。

4 「中国古鳥類図鑑」2000年、中国で開催した世界SAPE総会を記念して出版された図鑑。侯教授編集。16種の化石鳥類について化石及び復元イラストを掲載。中国語及び英語の説明文つき。美装本。  

5 義県層 (Yixian Formationイーシャン層 室井渡1940年命名)遼西地域に分布するジュラ紀後期から白亜紀前期の地層。凝灰岩、泥岩、頁岩、火山岩などの互層をなす。上部、中部、下部の部層に分かれるが、羽毛恐竜や孔子鳥などの化石は上部の湖堆積層から産出する。なお、義県層最下部の年代について、40Ar/39Ar(アルゴン同位体)法により約125百万年前(白亜紀前期バレミアン期)とする報告が、CARL C. SWISHER IIIらによりされている(ネイチャー99/7/1)。一方、羅清華らは同年、黒雲母を材料としたアルゴン同位体法により義県層最下部を約147百万年前(ジュラ紀後期チトニアン期)としている。が、CARL C. SWISHER IIIらは再び義県層下部年代を約125百万年前と報告した(科学通報第48巻第23 pp.2009-2012 2001/12/15)

義県層を白亜紀前期とすると、そこから翼竜などのジュラ紀型生物とプシッタコサウルスなどの白亜紀型生物がともに産出することが問題になる。これについてジュラ紀型生物の ロストワーロドとする見解も発表されたが(Luo,ネイチャー99/7/1)、それに対し石川県白峰村の手取層から産出した化石の研究から、その古生態環境は単にロストワールドとす るより、もっと複雑なものだったとする報告も発表されている(真鍋他,ネイチャー2000/4/27)

6 九仏堂層 (Jiufotang Formationジウフォータン層 遠藤隆次1934年命名)義県層の上にある地層。白亜紀前期。砂岩、礫岩、頁岩、泥岩などの互層をなす。やはり化石を産出する。

7 熱河生物群 遼西地域中生代の地層からはこれら以外にも哺乳類、爬虫類、両生類、魚類など脊椎動物、貝や昆虫、節足動物など無脊椎動物、および植物化石も産出している。これらを総称して「熱河生物群(Jehol Biota)」という。地理的分布は日本の一部も含まれる。

(写真は杜氏孔子鳥 ネイチャー1999/6/17号より)

8 鳥類の分類 これは私にはよくわかりません。教授によれば大別して古鳥亜綱、反鳥亜綱、新(中国では今)鳥亜綱に分かれるそうです。古鳥亜綱には始祖鳥と孔子鳥、中国鳥、華夏鳥などが含まれます。反鳥亜綱はエナンティオルニス類のことでしょうが、具体的に中国の化石鳥類のどれがどうなのかわかりません。新鳥亜綱は今の鳥類につながるもので、遼寧鳥、朝陽鳥、甘粛鳥、松嶺鳥などが含まれるそうです。もちろん、「亜綱」という言い方も、鳥類は恐竜類の一部という見方に立てば成り立たなくなります。

参考文献

「鳥のルーツを探る」展図録 1999年 中日新聞社社会事業部
中国古鳥類図鑑 2000年 雲南科技出版社
遼寧北票鳥化石群国家級自然保護区図片 2000年 遼寧民族出版社
古脊椎動物学報 第36巻第21998年、39巻第2 2001年 科学出版社
中国地層典侏羅系、同白亜系 2000年 地質出版社
恐竜データブック 1992年 大日本絵画
ネイチャーほか本文掲載の各誌