本人もいうよう、この説が本当に認められるには、標本や実験などいろいろ
まだ必要なことがあるように思えました。今回の発表の眼目は、腸骨の後方
への開きにより、股関節を無理やり開かなくても後肢が開くということなので
しょう。
以下に、プレスリリースによる、徐星教授の新説概要を転記します。
1 鳥類の飛行起源
飛行の起源が「樹上からの滑空」であるとする仮説(樹上起源説)は、獣脚
類恐竜が鳥類の祖先であるという、現在の分岐分析によって支持されてき
たあらゆる説からするとありえないことだと長い間考えられてきた。しかし近
年、樹上性の鳥類に匹敵する足の特徴を持つ、例えばミクロラプトル・グイや
ミクロラプトル・チャオイアヌス、グラキリラプトルのような、原始的なドロマエオ
サウルス類が発見された。鳥類以外の獣脚類恐竜にも樹上性のものがいた
可能性を示唆し、樹上生活起源説を裏付けるものとなった。これらの原始的な
ドロマエオサウルス類の後肢の中足骨には、長くそして飛翔のための風切羽
に特徴的な左右非対称な形状を成していた羽毛があった。このことは、原始
的なドロマエオサウルス類は走ることが得意ではなかったことを表す有力な
証左である。
2 翼の進化の過程
原始的なドロマエオサウルス類の後肢は滑空時に斜め後方に伸びる機能
を持っていた。後肢の長く大きな羽毛と尾羽は一体化し、あたかも1枚の「翼」
の状態となり、揚力面を形成していたと推測している。通常の恐竜の腸骨は、
体の正中線と平行に配置され、歩行に適した構造となっているが、原始的な
ドロマエオサウルス類や鳥類を含む真マニラプトル類の腸骨は、正中線に対
してハの字型に斜め後方に開くような配置となっている。このことにより、真
マニラプトル類は、後肢を斜め後方に開くことができたと推測する。このことに
より、後翼の揚力面を出来るだけ大きくすることができたと推測する。また、
恥骨も後方に伸びた形に変化しており、体高を低くすることができるようになっ
たことで、空気抵抗の少ない平たい体を得ていた。
近年のアーケオプテリクス(始祖鳥)の再研究によれば、後肢の脛骨に沿っ
て比較的長く大きな羽毛があることが判明し、アーケオプテリクスの小さな後
翼の存在を示唆した。
鳥類を含む原始的な真マニラプトル類は、ミクロラプトル・グイなどの羽毛恐
竜にみられる揚力を生み出す二つの翼、すなわち前翼(推力と揚力の発生器)
と後翼(揚力の発生器=後肢と尾によって形成)を発達させた。推力を得るため
に前肢を羽ばたかせ、後翼を展開し揚力を得た。滑空時は前後の二つの翼を
広げさらに大きな揚力を得たと推測している。
鳥類は初期進化の過程において、前翼を主に使い後翼は揚力を生み出す
役割を失っていったと推測している。ミクロラプトル・グイは、揚力を発生させる
二つの大きな体表(前翼と後翼)を持っていたことから、飛行進化の初期段階
を代表するものであり、またアーケオプテリクス(始祖鳥)は、足の羽毛が小さく
なったが、その代わりに大きな羽毛のついた尾でそれを補っていた次の段階
を示すものと言える。
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