T-REXを観てきたぞ1.1.99

 東京・新宿南口の高島屋タイムズスクエア12階の東京アイマックス・シアターで
上映されている3D映画です。

 私は一般上映前に金子隆一氏と一緒に観てきました。たまたまその日は某漫画
雑誌主催の試写会だったので、いろいろ(私たちには余計)なイベントが前後につい
ていました。例えば”だっちゅーの”のパイレーツの妹分と称するヤンキースという女
性2人の学芸会なみのコントともつかぬお粗末な時間つぶしにつきあわされたので
すが、それはいらぬこと。本題に入りましょう。

 場所はカナダのレッド・ディア川沿いのバッドランド。ここは昔から恐竜化石の産地
として有名な所です。ここで発掘をする古生物学者が偶然、恐竜の卵とも糞化石とも
つかぬ物を博物館に持ち帰ったことが事の発端になります。
 古生物学者の娘が博物館を訪問したときに事故でその化石が割れ、ガスが出てく
る。その後博物館内をさまよった娘が過去にタイムトリップしてバーナム・ブラウンや
チャールズ・ナイト、果ては白亜紀でT-REXに出会うのですが・・・

 この映画で感心したことをいくつか。
 第一に、3D映画ですから臨場感が違う。崖から石が落ちてきたときなど、ホントに
当たるかと思いましたよ。

 第二に撮影現場が良い。バッドランドでの発掘風景は、私が実際にカナダのロイヤ
ル・ティレル博物館のデイ・ディッグで見たのとあまり相違ありません(絵にするため、
実際以上に個々の発掘サイトが近接していますが)。また、埋め込まれている化石は
金子隆一氏も本物と見分けがつかないと言うほど真に迫っています。このあたり、ジュ
ラシックパーク冒頭の発掘風景より上です。
 一方、博物館の中は一部、ロイヤル・ティレル博物館を舞台に使っています。また、
ラボも私が実際にロイヤル・ティレルのラボを見たのとよく似た雰囲気になっています。
入ったことのない方には参考になるでしょう。

 第三に、バーナム・ブラウンやチャールズ・ナイトという、一般にはあまり名の通ってい
ない人物に焦点を当てていること。この二人は古生物学者ではなく、前者は発掘を請け
負った人物、後者は恐竜画家です。主役の娘のように恐竜好きであれば知っているで
しょうが。この点、日本のプログラムではどのように紹介しているのでしょうか。

 次に、いただけない点をいくつか。
 第一に、古生物学者が恐竜卵とも糞ともつかない物を発見したとき、そのまま手で取り
上げてしまっている。私のようなしろーとにも、その無謀さは驚きです。発見時の状況の
記録や、ジャケッティングは最低するでしょう!もっともジャケッティングしてあったら、ラボ
の机に無造作に置かれた卵が転がり落ちて割れることも無かったのでしょうが。

 第二に、普通の古生物学者だったら、糞化石と卵の見分けはつくでしょう。'98年夏もカ
ナダでティラノサウルスと考えられる糞化石発見のニュースが流れました。その形状は明
らかに卵とははっきり異なります。

 第三に、これは金子氏の指摘ですが、ナイトは”ラプトゥールス”とかいう肉食恐竜が格闘
している画を描いていますが、これはヴェロキラプトルを指しているのではない。だが、映画
ではヴェロキラプトルであるとしている。年代的にも違うのだそうです。ただ、フィクションとし
て別の”ラプトルズ”を描いたという設定なら、ヴェロキラプトルの記載は1926年、ナイトは'40
年代まで活躍しているので、かろうじて辻褄が合うでしょう。

 第四に、最終場面でオルニトミムスの盗んだT-REXの卵を娘が取り戻すと、それまで猛り
狂っていたT-REXが一転、目を細めて鼻面をなでさせるほどおとなしくなるのですが、これも
設定に無理があるでしょう。泥棒と正義の味方を区別できるほど知能が高かったとは思えな
いのですが。

 ほかにも、出てくる恐竜が白亜紀というだけで年代の差を考慮せず登場するとか、細かく
観ればいろいろあるようです。

 総体的評価としては、この映画はある程度の古生物学の裏付けの上に作られた、ファンタ
ジーであるととらえるのが妥当でしょう。フィリップ・カリー監修なのですが、彼が全編にわたっ
て目を通したとは、とても思えないのです。
 金子氏との結論は、娘は化石から出たLSD類似のガスにより、不確かな知識に基づいた、
自らの願望の幻覚を見たのだということです。
 とはいえ、一度は見てもよいのではないでしょうか。恐竜の出来はジュラシック・パーク並
ですし、一般に娯楽作品として見る分には十分楽しめます。
 評判がよければこの作品は'99年夏まで上映されるそうです。

参考:東京アイマックス・シアター
    あちらのアイマックスシアターのT-REXのページ(ここの方が内容がはるかに濃い)
    映画瓦版の批評