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米、ニューメキシコ州産出の新しいティラノサウルス上科 2.05.10
 Carr, Thomas D. and Williamson, Thomas E.(2010)
 Bistahieversor sealeyi, gen. et sp. nov., a new tyrannosauroid from New Mexico
 and the origin of deep snouts in Tyrannosauroidea
 Journal of VertebratePaleontology, 30: 1, 1 ? 16 DOI: 10.1080/02724630903413032

  米ニューメキシコ州、上部カンパニアンから産出したティラノサウルス上科
 恐竜を記載しています。
 
 Bistahieversor sealeyi 新属新種
 属名:産出層adobe層のある土地の区域Bisti Wilderness Areaから+"eversor"
    ギリシャ語で破壊者。この恐竜が肉食と推定されることから。
 種小名:完模式標本の発見者、ニューメキシコ自然史博物館の研究員Mr. Paul Sealey
     に献名。

 完模式標本:NMMNH P-27469 関節した頭蓋および骨格。ただし、本論文執筆時には、頭
 蓋以外の骨格はまだ剖出途中です。頭蓋長は最大1070mmとしています。
 ほかにNMMNH P-25049 幼体の不完全な頭蓋と骨格などがあります。論文には両頭蓋の図
 版が掲載されています。
 

 固有派生形質:前上顎骨の口蓋突起が二股になっている、鼻骨に過剰前頭突起がある、
 鼻骨に穂先状内側前頭突起がある、ほかの特徴があり、論文中に図版でも示されていま
 す。

 系統上の位置づけ:本論文で行われた系統分析では、これまで一緒に分析されてこなかっ
 た基盤的ティラノサウルス類 Dilong, Guanlong, Tanycolagreus, Coelurus, Iliosuchus,
 Stokesosaurus, Aviatyrannis 及び Eotyrannus を含めて分析しています。その結果、
 Bistahieversor sealeyi はティラノサウルス上科の中で、Appalachiosaurus, Alioramus,
 Dryptosaurus 及びティラノサウルス科と未確定の多系統をなしています。またティラノサ
 ウルス科が単系統であることを示し、Albertosaurus はティラノサウルス亜科の姉妹群であ
 ある。ティラノサウルス属は単系統であり、最も近縁の外群はDaspletosaurus及びユタ産の
 新分類群であるとしています。一方、ティラノサウルス上科においてはAlectrosaurus,
 Bagaraatan, Aviatyrannis, Eotyrannus, Stokesosaurus および Iliosuchus は多系統で
 あり、これらに対し基盤的なのがDilongTanycolagreus としています。
 さらに、Coelurusは同上科からはずれ、Guanlong はコエルロサウリア類からもはずれ、
 Monolophosaurus と姉妹群をなすとしています。

 この発見により、北米西部の上部カンパニアンおよびマーストリヒチアンでは山々に隔てら
 れた盆地ごとに異なったティラノサウルス上科の種または属が見られるが、上部マーストリ
 ヒチアンでは、Tyrannosaurus rex のみ見られるのと対照的であるとしています。

 上顎骨の水平枝の浅深:本論文では上顎骨の水平枝とりわけ歯のある部分の深さ(側面から
 見た骨の幅)に注目しています。Bistahieversor とティラノサウルス科においてはこの部
 分は幅広いですが、Dilong, Appalachiosaurus, Alioramus や他の外群では幅狭いものに
 なっています。これは、ティラノサウルス類の深い(側面が幅広い)上顎骨は、後期白亜紀の
 ティラノサウルス上科の共通祖先において米北西部で最初に進化し、後にアジアにも分散し
 たものと仮説を立てています。
 ただし、論文最後の付録で、前記白亜紀中国で発見されたRaptorex kriegsteini に触れて
 います。この恐竜は大型ティラノサウルス科に対し小型ティラノサウルス上科であるが、
 前肢の縮小が既に見られる。発見された標本は亜成体で、その上顎骨の歯のある部分は幅
 狭いが、筆者らは、この恐竜が成体になった時には幅広くなるだろうと仮説しています。
 そうすると、幅広い上顎骨の適応はカンパニアンより遥か以前、北米ではなくアジアに起源
 をもつことになるとしています。