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Compsognathus longipes の手の形態学及びコンプソグナトス科の分類基準におけるその関係
 05.05.07
 ALAN D. GISHLICK and JACQUES A. GAUTHIER
 On the manual morphology of Compsognathus longipes and its bearing on the diagnosis
 of Compsognathidae
 Zoological Journal of the Linnean Society, 2007,149, 569–581.

  映画ジュラシックパークで"コンピー"の愛称で登場したコンプソグナトス。ポピュラーな恐
 竜に思えますが、その手の形態はまだはっきりしていなかったそうです。指は何本あるのか、
 その指はちゃんと機能する指なのか痕跡的なものか、研究者の意見は分かれています。
 この論文では模式標本の手の骨を詳細に検討し、指の本数及び機能の有無を決定すると
 ともに、それを用いて新たなコンプソグナトス科の分類基準を定めています。

 Compsognathus longipes は1861年、Wargnerにより記載されました。最も初期に記載された恐
 竜の一つです。完模式標本は、石板上に非常によく保存されたものですが、その手の部分を
 構成する骨は散在しています。どの骨が何にあたり、また指の数は何本か、これを研究し解
 釈する者により、結論は異なっていました。指の数は2本から4本までばらつきがありました。
 指節の数も解釈により異なっています。

 本論文によると、これらのばらつきの元は、以下の理由からになります。これまでの研究者は、
 関節せず、一部散在するとはいえ、標本の手を構成するそれぞれの骨の配置は、生きていた
 時の状態に近い。特に左右の手の3本の大きな骨を3本の中手骨とする見方が一般的でした。
 しかし、例えば左第二中手骨と多くの研究者が同定した骨を、本論文では左第一指第一指節
 としています。また、離れた所にある骨頭断片について、オズボーンは不可解な骨としてい
 ましたが、本論文では第一中手骨としています。では、なぜそのような結論を導き出せたの
 でしょう。
 
 本論文では完模式標本中の手を構成する骨の位置に基づかず、その形態を重視して各々の
 骨が何なのか評価しています。獣脚類の手の骨は、その形態とサイズがそれぞれ異なって
 いるからです。

 各々詳細に検討した結果、Compsognathus longipes は2本の完全に機能する指と、1本の退縮
 した、恐らく機能しない指をもつとしています。また、手の形態により「コンプソグナトス科」
 を定義しなおしています。

 定義し直されたコンプソグナトス科
 第一中手骨の特徴がCompsognathus longipes Wagner, 1861 (BSP 1563),のそれと相同な、膨大
 した第一指を持つ最初の祖先から派生した全てのテタヌラ獣脚類で、その特徴には以下のものが
 含まれる:第一中手骨は非常に短い(第一中手骨/第二中手骨は35%より小さい(Compsognathus
 26%、Sinosauropteryx prima で35%))、その個々の伸筋結節は近位-放射状に向いている(近位対
 放射状比1.8-1.4)、及び 僅かに非対称な遠位顆(尺骨顆と放射顆の偏差 5°未満)。
 関連する分類群:Compsognathus longipes Wagner,1861, Sinosauropteryx prima Chen, Dong &
 Zhen,1998. Huaxiagnathus orientalis (Hwang et al., 2004)そして Nqwebisaurus thwazi
 (DeKlerk et al., 2000) に膨大した第一指はあるが、第一中手骨にはこれらの特徴のどれもない。
 Huaxiagnathus orientalis では、第一中手骨はより長く、第二中手骨の半分より僅かに短い、約
 45%である(Hwang et al., 2004)。また顆はより非対称で偏差は10°。この状態は基本的に
 Nqwebisaurus thwazi でも同じであり、写真を元にするとおよそ40%、顆の偏差は10°。
 Scipionyx samnictus は比較的対象な顆(< 5°)を有するが、第一中手骨はより長い(第二中手骨の
 約40%)。また、伸筋突起が無かったことは明白である。第一指は大きく第一指第一指節は第二
 中手骨と殆ど同じ長さである。膨大した第一指はスピノサウルス科でも報告されている(Charig &
 Milner,1997; Sereno et al., 1998)が、現時点でコンプソグナトス科恐竜と比較するのは不可能
 である。なぜなら、どのスピノサウルス科恐竜にも、第一中手骨又は第一指第一指節がある完全
 な手は保存されていないからである。手の材料が知られるスピノサウルス科はBaryonyx walkeri
 Suchomimus tenerensis のみである。Baryonyx walkeri には第一指に帰せられる末節骨と、2個
 の指節骨と1個の末節骨があり、これは第三指第二、三、四指節とされている(Charig & Milner,
 1997)。 Suchomimus tenerensis では第二中手骨と多くの指節骨が保存されている。(Sereno et
 al., 1998)。報告された材料に基づくと、記載された派生形質のどれも分類基準とできず、また
 膨大した第一指末節骨はSinosauropteryx prima のそれのように派生形質になるようには見えな
 い。

 結論として以下のように述べています。
 この再解釈は、テタヌラ類から基盤的コエルロサウリア類に向け、中手骨と指骨が、手が長くな
 る傾向に適応するように見える他の獣脚類の進化の中に、コンプソグナトス科の手の進化を位置
 づけることを助ける。基盤的コエルロサウリア類の手は、鳥類を含むマニラプトラ類でますます
 手が長くなる傾向の前兆となっている。獣脚類の系統は手のみから決めることができるが、この
 再解釈によりCompsognathus longipes の手の形態が明らかになり、それをこの傾向の中に位置
 づけることができる。またコンプソグナトス科は、個別の伸筋突起がある短く太い第一中手骨と
 膨大した第一指をもつクレードとして分類される。ただ、これは基盤的コエルロサウリア類の系
 統中の位置づけについて僅かな情報しかもたらさない。これがなぜ重要かというと、基盤的コエ
 ルロサウリア類の分岐パターンはいまだ不明確だからだ。そのため、獣脚類の中で原羽毛及び真
 の羽毛がどのポイントで進化したか明らかになっていない。原羽毛を有していたSinosauropteryx
 primaとの系統的つながりからは、Compsognathus longipes は(保存されていないが)羽毛を有し
 ていたに違いないし、鳥類と共通祖先を有していた。

 アブストラクトほにゃ訳
 Compsognathus longipes は獣脚類の進化の中、コエルロサウリア類の基盤で、重要なポイントに
 位置している。その相対的完全さ及びしばしば引用された形態にかかわらず、その手の形態は明
 確ではないままだった。この作業ではCompsognathus longipes の手の形態について、初の詳細
 な研究をもたらす。それによりCompsognathus longipes は2つの完全に形成し機能する指ならび
 に退縮した恐らく機能しない第三指を有していたことが明らかになる。その結論は、Compsognathus
 longipes
の第二指には、2つの指節しかなかったという従来の解釈と反対に、むしろ、予期された3
 つの完全な指節を持っていたことになる。この作業では、しばしば「コンプソグナトス科」として参照
 されるサブクレードを分類するのに用いられる第一中手骨の形態の独特な一組を明らかにする。
 これらの特徴は、派生形質に基づいた新しいクレード名:コンプソグナトス科の定義を構成するた
 めに用いられる。

 

図版は論文から、カメラルシダにより構成されたCompsognathus longipes
左手。