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石川県白山市桑島の手取層群(白亜紀前期、約1億3000万年前)から産出した新種の爬虫類 11.05.06
 記者発表資料により、紹介します。
 

【発見、研究、論文発表まで概要】

今回新種として確認された化石は(または,当該標本は),桑島化石壁の裏を通る
ライントンネル建設中に掘削された岩石の中から、20015月に調査の過程で、調査
員によって発見された。
山口ミキ子氏による、のべ数十時間の精密なクリーニングの
結果、胴体の背中側が岩石中より露出した。
化石には、動物の胴体から尻尾の付け根
までの約15センチメートルの部分と、大腿骨(太ももの骨)などが含まれていた。

20042月に、小型化石のCTスキャン技術で定評のあるテキサス大学オースチン校
CTスキャンを行った結果、骨盤、脊椎骨の腹側の特徴が確認された。これらのデー
タから、本標本が新種のドリコサウルス類であることが判明した(200472日に
記者発表)。20053月に新種の根拠と新種名を提唱する原稿を英国古生物学会誌
Palaeontology(パレオントロジー=古生物学)に提出した。第三者の複数の研究者に
よる査読の結果、200511月に原稿が受理され、
論文20061116日発行のパレ
オントロジー誌に掲載されることになった。
同日をもって新種の学名“Kaganaias hakusanensis”(カガナイアス・ハクサンエンシス)
が国際的に公表されることになる。


論文タイトル
「A long-bodied lizard from the Lower Cretaceous of Japan」
(日本の白亜紀前期の胴長トカゲ)
 著 者   スーザン・エバンス(英国・ロンドン大学・教授)、
       真鍋 真(国立科学博物館・主任研究員)
       野呂 美幸(東北大学大学院・博士課程)、
       伊左治 鎭司(千葉県立中央博物館・上席研究員)、
       山口 ミキ子(白山市)

学名について
 Kaganaias hakusanensis
 属名:「kaga」=「加賀」+「naias」=「水の妖精」の意味
 種小名:「hakusan」(ハクサン)は「白山」、「ensis」(エンシス)は「地名の接尾辞」
 「加賀の水の妖精、白山にすまう」という意味を持つ


【分類の結果、生態】

胴が長いこと、脊椎骨の関節に複雑な形が見られること、白亜紀後期(約9900万年
前)のクロアチア、スロベニア付近の海の地層から発見されたアドリオサウルス(ド
リコサウルス類)に類似することから、ドリコサウルス類に分類される。しかし、ア
ドリオサウルスよりも胴がさらに長いと考えられ、生息時代、場所が著しく異なるこ
とから新種であると考えられる。推定全長4050センチメートル、大人か子どもか、
性別などは判らない。発見された岩石の特徴から、川辺の湿地を、長い体をくねらせ
て這い歩いたことが想像される。肋骨の骨密度が高いこと、胴体が上下に高いことか
ら、川の中を泳ぐことが出来た可能性もある。


【化石壁産出ドリコサウルス類の意義】

(1) ドリコサウルス類は、白亜紀後期(約9900万年から6500万年前)のヨーロッパの
 海の地層からしか見つかっていなかった。白山市桑島の桑島層は白亜紀前期(約1
 3000万年前)の地層で、このグループとしてはこれまでより約3000万年古く、世界
 最古の化石となる。ヨーロッパ以外の地域から化石が発見されるのは初めてであり、
 浅海ではなく淡水の地層から発見されるのも今回が初めてである。


(2) ドリコサウルス類は、大型海生爬虫類モササウルス類(海トカゲ竜)やヘビ類に近
 縁な爬虫類だと考えられている。これまでドリコサウルス類、モササウルス類、ヘビ
 類の最古の化石が、白亜紀後期(約9900万年前)のヨーロッパから見つかっていたた
 め、彼らの起源がヨーロッパにあると考えられてきた。しかし、化石壁からの産出は、
 その起源が白亜紀前期のアジアにあった可能性を示すものである。


(3) ヘビは、オオトカゲ類がヨーロッパの浅い海で、泳ぎを効率化させる中で誕生した
 という説(2000年に論文発表)が、注目されていた。しかし、今回の発見は、この説
 には当てはまらず、ヘビの起源の議論に一石を投じるものと期待される。


「カガナイアス ハクサンエンシス」化石
 写真右側が前方。肩のあたりから尻尾の付け根ぐらいまでの部分が発見された。
 発見された化石は、長さ15センチメートル程度

Kaganaias hakusanensis

「カガナイアス ハクサンエンシス」の復元画(画:菊谷詩子)
 河辺を這っている様子(推定全長40 〜50cm)
Kaganaias hakusanensis reconstruction


【用語解説】
 ドリコサウルス類:白亜紀後期(約1億年前から6500万年前)ヨーロッパの海に生息し
 ていた海生爬虫類で、胴体が著しく長くなり、手足が退化している。モササウルス類
 に近縁で、ヘビへの一歩手前の進化段階を示す爬虫類かもしれないと考えられている。

モササウルス類(海トカゲ竜):中生代の巨大な海生爬虫類。陸生のオオトカゲ類の中
 から水中生活に適応したもので、白亜紀後期の海で繁栄していた。最大の種は推定全
 長12メートルにもなったと考えられている。

ヘビ類:イスラエルの白亜紀後期から発見されたパキラキスが世界で最古の化石。前肢は
 完全に退化していたが、小さな後肢が残っていた。