戻る

ダチョウ恐竜の食性 3.16.05
 THE DIET OF OSTRICH DINOSAURS (THEROPODA:ORNITHOMIMOSAURIA)
 PAUL M. BARRETT Palaeontology, Vol.48,Part 2,2005, pp.347-358
  doi:10.1111/j.1475-4983.2005.00448.x

 俗にダチョウ恐竜といわれる、オルニトミモサウリア類の食性について、その
 頭蓋形態、体部からの証拠、オルニトミモサウルス類の代謝から推定される必
 要エネルギー日量および懸濁物食(フラミンゴのように水中の動植物プランク
 トン等を濾過して食べる)とした場合に得られるエネルギーの算定、オルニトミ
 モサウリア類が生息していた地域の古環境およびタフォノミー上の証拠これら
 について証拠づけた上で、懸濁物食はありえなかったと結論しています(The
 Beaks of ostrich Dinosaurs NORELL et al 2001 に対立)。
 
 アブストラクトほにゃ訳
 オルニトミモサウリア類恐竜の食性について議論しています。解剖学、タフォ
 ノミー、および古生物学的証拠の再評価、また2属の派生したオルニトミモサ
 ウリア類の毎日の最小所要エネルギーの見積もりにより、懸濁物食性(フラミ
 ンゴのような食性)や肉食性ではありそうになかったのを示す。
 ケラチン化した角鞘と砂嚢が共に存在することは、これらの恐竜が植物食性
 であることを強く示している。植物食性および雑食性は非鳥獣脚類の中で稀で
 あるが、以前に疑問をもたれたよりは普通にある。派生したオルニトミモサウ
 リア類の肉食性を拒絶することにより、いくつかの白亜紀後期動物群における
 植物食動物と肉食動物の生態的ギルドの相対的な豊富さの明らかな食い違いを
 直す(植物食恐竜に比べ肉食恐竜の相対比が高すぎるという食い違い)。


 まず、この論文の目的は、
 (1)オルニトミモサウリア類のために提案された様々な食性仮説を支持するた
  めに用いられた、機能的、解剖学的、古環境的およびタフォノミー(化石生成
 過程)的証拠を批判的に評価する。
 (2)オルニトミモサウリア類の毎日の最小所要エネルギー見積り計算に利用す
  る、懸濁物食、肉食、植物食のエネルギー的生存力の調査。
 (3)一般的な条件でオルニトミモサウリア類の食性の構成を評価するこれら一
  連の証拠の組合せを使用する。
 としています。

 (1)について、まずケラチン質のくちばし、角鞘をとりあげています。
 Ornithomimus edmontonicusと、Gallimimus bullatus にケラチン質の角鞘が
 認められています。特に後者の角鞘では櫛状構造が認められます。これまで、
 カモ類の行う濾過食に関連づけて考えられてきました。しかし本論文ではこの
 ような構造は植物性のカメやハドロサウルス類を強く想起させるし、植物食の
 オウム類にもある。むしろ高繊維質植物食性であったというべきとしています。
 
 次に頭蓋形態では懸濁物食鳥類とは顎の構造が異なること、鼻孔の位置が異な
 ることをあげています。
 さらに、手の構造が捕食性でなく引っ掛けたりつかむことに特化しているが、
 これは食事中に枝を口に持っていくためとしています。最後に内蒙古自治区で
 発見された12体のSinornithomimus 標本から胃石が発見されたことを取り上げ
 また砂嚢があることから植物食性を強く示すとしています。

 (2)については、体質量と所要最小エネルギーとの関連式により、その代謝が
 哺乳類並から"冷血"爬虫類まで5ランクの所要量を算出しています。その上で
 体重440kgのGallimimus が必要とするエネルギーを1〜46 および 43〜57 MJ
 (メガジュール)、それを得るための食物量は乾燥質量で0.07 および 3.34 kg
 としています。しかし、フラミンゴとは体の大きさが全く異なるこれら恐竜で
 は、その量の餌を懸濁物食で採るには数千リットルの水を濾すことになり、無
 理な話になります。また水中のプランクトン量は季節により大きく異なり、一
 年中毎日それに依存しているのは無理としています。

 (3)については、カナダのOrnithomimus などが産出したDinosaur Park 層の古
 環境は湿潤で河川沼沢なども多くあったとされ、懸濁物食でも環境に適応して
 いたと考えれます。一方ネメグトや内蒙古の古環境は、半砂漠から砂漠と考え
 られ、水が豊富にあったとはいえません。

 その上で、オルニトミモサウリア類が植物食、肉食、雑食のいずれだったのか
 議論しています。まず、派生したオルニトミモサウリア類に見られる、角鞘
 (ケラチン質のくちばし)と砂嚢の組合わせは、高繊維質植物食に最も矛盾し
 ないとしています。

 また、ネメグト層から産出した標本数はおびただしく、同様にイレン・ダバス
 層ではハドロサウルス科に次ぐ数であるこ。これから、これらの生態系に占め
 る生態的ギルドが肉食性であるとすると、肉食性のT-REXなどに比べ以上に高い
 植物食対肉食の比率になるとしています。しかしオルニトミモサウリア類が植
 物食性とするならば、この比率は納得できるものになります。

 オルニトミモサウリア類ではPelecanimimusHarpymimus は歯が残りますが
 派生した同類では歯はなくなります。本論文ではPelecanimimus の細かい密集
 あいた多数の歯は植物を切るエッジの役割をしたのでないか、それは角鞘と同
 じ役割ではないかとしています。もしそうなら歯をなくす前の前適応となりま
 す。

 さらに、獣脚類間の系統関係と植物食恐竜の出現を取り上げ、これがオヴィラ
 プトロサウリア類、トロオドン科、テリジノサウルス上科、オルニトミモサウ
 リア類、の基盤で起こったのか、各クレードで別個に起こったのかは、さらに
 研究を要するとしています。さらにくちばしと植物食の関係は、植物食の鳥類
 とくちばしの関係に光をもたらす可能性があると締めくくっています。