中国産の4つの翼をもつ恐竜 1.23.03
Four-winged dinosaurs from China
徐星、周忠和、汪筱林、XUEWEN KUANG、張福成、XIANGKE DU
ネイチャー1月23日号掲載(アーティクル) Nature 421, 335
- 340 (2003);
後肢にも長い正羽があるMicroraptor の新種を記載するとともに、飛行
の起源に関してその中間段階として四肢を使った滑空があったことを示
唆しています。
以下、News & Views(Richard O. Plum) の解説も参考に、紹介いたしま
す。鳥類の進化に関しては3つの主要な論点があります。
1.鳥類そのものの起源 2.羽毛の起源 3.飛行の起源 です。
今回の記載は、このうち3番目に光を投げかけています。
Microraptor
gui sp. nov.
種小名は、熱河生物群の研究に顕著に貢献した古生物学者、顧知微
(Gu Zhiwei)を顕彰するもの。
標本 IVPP V13352 (完模式標本) および V13320
(参照標本)
そのほかの標本をあわせると、6個の標本があるそうです。
産地と層準 中国遼寧省朝陽市太平房(朝陽市街から南西30km)
九仏堂層(白亜紀前期)
分類基準 Microraptor
zhaoianus から、著しい橈骨二頭筋結節がある
点、前肢第一指がはるかに短い点、強度に湾曲した恥骨および
湾曲した脛骨がある点で区別される。
体長は約77cm。記載では、もちろん骨学的な部分もありますが、ここでは
その羽毛について紹介します。以下、ほにゃ訳。
羽毛はIVPP
V13352では骨格全体を覆っている。綿羽と正羽の2タイプ
があり、綿羽は25-30mmの長さで体を覆い、頭部では40mmほどに達して
いる。Pithecophaga jefferyi(フィリピンワシ)のようにディスプレイ用に発達
している。
大型の正羽は尾の遠位、前肢および後肢にあり、現生鳥類のものと同様
な翼羽が保存されている。
第一翼羽(初列風切)は約12枚あり、約18枚ある第二翼羽(次列風切)よ
り著しく長い。もっとも遠位にある第一翼羽は手に対し平行に近く、それ以
外は遠位から近位になるにつれ、角度を増している。最長の第一翼羽は、
保存不完全だが、上腕骨の2.7倍あるいは大腿骨の2.3倍の長さ。完模式
標本のいくつかの第一翼羽は非対称であり、その一番目の羽はあとに続
く羽より幅が細い。
第二翼羽は上腕骨より長く、尺骨に対し垂直に近い。近位の羽は対称
羽だが遠位の羽はやや非対称を示す。
完模式標本の手の第一指に付いている、数枚の比較的小型の羽は、注
目すべきものである。これらはよく組織化された正羽をなし、小翼羽の先
駆形であるかもしれない。小翼羽は飛行の制御に関連し、Archaeopteryx
およびConfuciusornis 以外のほとんどの鳥類にある。
覆羽はあり、そのサイズは様々であるように見える。いくつかの覆羽は腹
側覆羽と同定される。
後肢にある風切羽状の羽が最も異様である。脚の羽は腕の羽と同様の
配列になっている。中足骨に少なくとも14枚の大型正羽が付いている。
第一翼羽と異なり、それらは中足骨に対し垂直に近い。遠位の羽は非対
称正羽だが、近位の羽はより短い対称正羽である。覆羽も中足骨につい
て、前肢の覆羽より密になっているように見える。脛骨にも正羽はあり、
中足骨のものより短いように見える。最長の脚羽は、保存不完全だが、
大腿骨の2倍以上の長さがあり、それは中足骨遠位端近くにある。
(注:後肢の羽はネイチャー2002年3月7日付けで掲載された、ドロマエオ
サウルス類にもありましたが、ディテール不完全で翼をなすところまで確
認されていません。Caudipteryxにもあったかな)
尾羽は第15-第18尾椎から末端まで生えている。基盤的ドロマエオサ
ウルス類の尾羽は、Archaeopteryx の尾にあるものより近位でないが
Caudipteryx の尾にあるものより近位に伸びている。もっとも遠位にある
尾羽は完模式標本で長さ120mm以上だが、TNP00996では尾長290mm
に対し最長の尾羽は約105mmである。
議論では、このような後肢にも正羽のついた生物のモデルを1915年に
Beebe, C が Zoologia誌に載せた論文"Tetrapteryx Stage in the
Ancestory of Birds" で示したものによって解釈しています。すなわち、飛
行の起源を樹上から降下とし、そこから翼の羽ばたきによる飛行の中間
形として、四肢に翼をもち滑空する生物を想定しているのです。
モデルではその後前肢の翼が羽ばたき、後肢の羽が退化する段階を迎
えるのですが。中間段階の生物として、Microraptor
gui は1915年の論文
から飛び出てきたような標本なのです。
前後肢の羽はともに完全な翼をなし、コウモリや他の滑空動物の飛膜と
相似したものであるとしています。これらの特徴から、基盤的ドロマエオ
サウルス類は、滑空能力があり、非鳥獣脚類と飛行する鳥類の中間段
階にあったと示唆するとしています。また、中足骨に長い羽が生えている
ことから、地上では歩く邪魔になり、そのため樹上性だったことを示唆す
るとしています。
結論として、基盤的ドロマエオサウルス類は樹上性動物であり、鳥類の
祖先は、鳥類における羽ばたく飛行を習得する前に、初めに重力を利用
した滑空を習得したことを示唆するとしています。
なお、これらの化石が合成品等でないことを証明するために、顕微鏡や
CTスキャンを用いて、一体であることを確認しています。
これは個人的感想ですが、これらの標本の四肢の関節が翼をなす程度
に開くものかの確認が必要ですし、できれば復元標本を作って風洞実験
などしていただきたいですね。さらに、異常に長くからみあった前関節突
起や血道弓はなぜなのかとか、大きい爪の役割なども樹上性、滑空の視
点で見直しの必要があるのではないでしょうか。
朝日新聞 BBC ネイチャーサイエンスアップデート ニューサイエンティスト
ネイチャー ジャパン 今週のフィーチャーで論文ダウンロードできます。
またはこちらで
参考:アメリカ自然史博物館の羽毛ドロマエオサウルス類
「比翼の鳥」の化石(つくば生物ジャーナル)PDFファイルです