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オルニトミムス類恐竜における植物食の食性12.2.99
  ネイチャー12月2日号掲載。
  小林快次(こばやしよしつぐ サザンメソジスト大), Jun-Chang Lu,
  董枝明(IVPP),リンチェン・バルスボルド,東洋一 & 冨田幸光

  2年前に内モンゴルで発見された12匹の胃石入りオルニトミムス
 類についてのリポートです。
 肋骨の中の胃石の存在とその状態から、この恐竜が、砂を使って植
 物をすりつぶす現代のトリのように、砂嚢を有していたことを示すそう
 です。
 (さのう:たいていの鳥類の胃の筋肉が発達した部分。ここで食物が
 摂取された小石の助けを借りてすりつぶされる)
 以下、ネイチャーbrief communication掲載文のほにゃ訳です。

  1997年、12個体のよく保存されたオルニトミムス類の骨格が、中国
 上部白亜系ウランスハイ累層から発見された。それぞれの骨格には
 その腹郭内に保存された胃内容物を含んでいたが、それらは関節し
 た背側肋骨と腹肋の中間層に着いていた。
 このオルニトミムス類における胃内容物の存在と特徴は、これら非鳥
 類の歯を持たない獣脚類は、植物質の食物を砂ですり潰す現代の植
 物食の鳥類のように、砂嚢を有し、植物食だったかもしれないことを指
 摘する。
 
  これらの恐竜から発見された胃石には主に珪酸塩質の砂から成って
 いて、骨質の成分や昆虫の残滓はない(エネルギー分散X線分析では
 殆ど五酸化リンを内容物から検出しなかった)。胃石は各個体の同じ領
 域から発見されたが、たいてい中央の背部肋骨の近くにあった。

 大きい個体に属する分離された胃石の塊(15×11×3cm)は、その肋骨
 の印象のサイズにより判断されたが、それは幼体に属するもの(10×7.5
 ×2.5cm)より大きい全容積を占める。そのことは、ワニ類で認められたよ
 うに、体のサイズと胃石の全容積との相関関係を指し示している。
 
  現生の鳥類においては、属間で胃石のサイズは、平均体重の対数に
 対する平均した粒子のサイズの回帰により証明されるように、体重と相
 関関係がある。我々は音波により、幼体から発見された一つの胃石の
 塊の一部を分解したが、それは大雑把に言って立方センチメートル当り
 170粒の砂を含んでいた(砂粒は、中軸に沿って0.5mm以上大きい場合
 カウントされた)。
 幼体(大腿骨の外周、57mm)の体重は約10kgと見積もられた。また砂粒
 の平均的な中間の直径は1.27mmであった。これは、見積もられた体重に
 関して言えば小さいものであり、現生の鳥類の範囲外に位置する(図1e)。
 
  直径1mm以下の殆どの胃石砂粒は、角張ったものから非常に角張った
 ものに及ぶ。またその直径が1から2mmのものは、大概やや角張ったもの
 である(図1f)。小さい砂粒は獣脚類の体内で短い時間しか滞留しなかった
 のかもしれない。一方より大きい砂粒は、恐らく他の砂粒とより磨耗にさら
 されたのだろう。非常に角張ったものと角張ったものを除いて、平均的な砂
 粒のサイズは2.41mmだったが、それは現生鳥類における値を基にした予
 測されたサイズに一致する(図1e)。全部で1,000以上の砂粒があるが、立
 方センチメートルあたり37粒の塊になっている。

  このオルニトミムス類の完全な陸上の生息環境は、これまでプレシオサ
 ウルス類、ワニ類そしてタンガサウルス類(注)で記録されたように、胃石
 が静水力学上の調整のために用いられた可能性を除外する。
 (注:ペルム紀後期に生息していた原始的な爬虫類。カリー1981では、そ
 の1種Hovasaurusの体内からバラストに用いられたと思われる多数の小石
 を報告している)
 砂粒中の小さいカルシウムは、このオルニトミムス類が、鳥類がするように
 カルシウム栄養物を摂取するために用いたことはありそうにないことを指し
 示す。歯の欠如と虚弱にしか発達していない顎の内転筋から示される、オ
 ルニトミムス類の口腔の限られた咀嚼能力は、胃石が植物食恐竜、雑食
 性や植物食の鳥類と同様に、食物を物理的にこなしたかもしれないことを指
 し示す。

  現生鳥類では、食性と用いる砂粒の特徴に明確な関連がある。肉食鳥類
 には筋肉質の砂嚢も砂粒もない、果実食の鳥類は小さい砂のみ用いる、そ
 して植物食の鳥類は、昆虫食や雑食の鳥類より多くの砂を保持している。
 このオルニトミムス類における胃石の存在と、かれらが保有している多数の
 砂粒は、現生植物食鳥類に見られるように、植物食と筋肉の発達した腹腔の
 胃または砂嚢を有していることと密接に結びついている。

  非鳥類の獣脚類恐竜における胃石は、このオルニトミムス類とカウディプテ
 リクスから発見されている。獣脚類の系統分析からは、オルニトミムス類とカ
 ウディプテリクスまたは鳥類のクレードとは近い関係にあることを支持しない。
 このオルニトミムス類における胃石の使用は収斂進化の結果であり、獣脚類
 における植物食性は個別の機会に進化したことを指し示す。
  ネイチャー
 ディスカバリーオンラインカナダ